さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

武藤雅治『花陰論』

2016年06月22日 | 俳句
 梅雨の頃というのは、四月に始めたことが一通り軌道に乗って安定してくるかわりに、多少疲れが出てくる時期でもある。ここにあらためて皆様のご健康をお祈り申し上げる。

 武藤雅治さんの歌集『あなまりあ』というのが届いて、今度の歌集は、なかなかいいのではないかと思ったから、知人と二、三人でやっている読書会のテキストに選んで、けっこう丁寧に読んで話し合った。ところが、その本が白くて薄い本なので、どこかにもぐってしまって捜しても見つからない。そのうちに去年同じ著者から届いた俳句集『花陰論』が出てきた。分かち書きの句である。ふたつ引いてみよう。

木陰を
抜け
影が少し
ずれてゐる

六月や
樹々のしづくの
ごとき
人影

 「人影」には、「かげ」と振り仮名がある。淡い。分かち書きによって、陰翳が強調され、ひとつひとつの言葉が持つ響きのやわらかさが、痛ましいまでに顕わとなっている。何でもない言葉が、イメージの映像をきちんと結んで息づいて、気配のようなものを伝えることができている。

『あなまりあ』については、別にまた書いてみたいが、これは、最近の武藤氏の歌集では出色のものだろうと思う。管見では、この歌集の前の歌集の抄出でひどく通俗的な歌が引かれていた。そういうところで、一人で一匹狼的にやっている歌人が、あまり好意的に扱われない場面を私は何度も見たことがある。まったく短歌というのは、自分の間尺に合ったところでしか読めないものではあるのだ。


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