さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

父の時代

2020年08月15日 | 日記
 今日は晩になって急にベートーヴェンの交響曲第七番などをかけて聞き始めたのだが、考えてみればお盆だし、カラヤンのベートーヴェンは父が好きだったから、これは追善にもなると思って、ベルリンフィルの演奏を大きめの音にして響かせている。二楽章から聞きはじめて、それが終わって、また一楽章から別の楽団の演奏で聞く。弦楽器の音が森の奥の枝と枝がぶつかり合うような響きをたて、木々の上を吹きわたる風のような、また滝壺のどよめきのような、よじれ合い、ぶつかり合う音の流れが旋風を起こしては鎮まり、また吹き上がり、生命が鹿の角を振り立て、馬群のかたちをなして疾駆してゆく。とどろき、ギャロップ、ターン、どよめき、ジャンプ、咆哮、ステップ、さざめき、哄笑。あらゆる感情が伸縮しながら流れをなして雲の上、天上にながれては飛び去り、立ち去って行く。あとには豊かなみどりの闇と沈黙がとどまっていた。

 次はガーシュウィンのラプソディー・イン・ブルー。そう言えば、これも父が好きだった。暑かった夏の晩にはなかなかふさわしい気がする曲だ。

今年は「短歌往来」に「父の時代」という題で歌を載せてもらった。後半を紹介したい。

   父の時代

従軍看護婦に志願せしひと「靖国で会ひましよう」と友は去りぬと

  ※北村小夜『画家たちの戦争責任』二〇一九年刊 

青島に振り分けられしわが父は生き残りたり予科練なれど
  ※「青島」に「チンタオ」と振り仮名。

飛行機なき飛行場のめぐりを走り居しのみと風呂場に語りき

はじめての酒はコップ一杯のビールなれど気絶して溝に転げ落ちしと

精神注入棒、手旗信号いじめ 薄暗き時代経てのち国鉄マンとして一期全うす




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