寒い夜の帰り路、疲れた自転車をウトウト漕ぎながら、
いつもの桜並木道を通る。
桜並木に差し掛かるところで、
「ふわん、」と、
桜餅のような、甘い、品の良い、薄桃色の、あの匂いに包み込まれる。
かれこれ、12月の終わり頃から。1月半ばの今に至るまで。
当然、桜の木立は、枯れ木の骨姿。
でも、
その香りは 桜並木の群れ為す、まさにその辺りの空間に、
まあるく、ふくよかに漂っていた。
誰だ?
辺りを見渡す。
*
初めてこの匂いを知ったのは、この道を通勤路にし始めた時だから、
かれこれ、4年ほど前の冬だったかしら。
桜ももちろんまだ全然咲く時期じゃない、なのに。もうどこかに、季節外れの狂い咲きが在るんだろうか?
夜の闇に目を凝らす。
枯れ木は枯れ木。冬木立。
夢でも見ていたのか、はたまた幻覚か、
いやいやありえない、たしかに眠いけど、さすがに寝てないし。
とりあえずびっくりして、闇の中をキョロキョロするも、
なにしろ闇の中。
(ーーー私の暮らすここら辺は、都内といえど都心ほど煌煌と常時照らされては居らず、むしろ結構暗い。それが心地好い)
なので、その夜は諦めた。
明くる明るい朝に「犯人」探しをするも、
夜にはふんだんに満ちて膨らんで居たはずの香りが、あまり感じられない。
奴はどうやら、夜に特別、ひときわ香り立つらしい。
また、冬風のきつい時には、鼻を刺す冷気も辛く、落ち葉か冬の土の香か、何かが邪魔をして、一瞬のあの香りを手繰るどころではない。
あの香りがいっそう広く大きく満ちるのは、冬の夜には珍しい、風のあまり無いおだやかな、ゆるい夜。
目には見えないし、いつまでもあるものでも無いし。
結局、
その妖しい匂いの正体は すぐには判らなかった。
その正体が判ったのは、しばらくしてから。
*
桜並木の長い道。そこに差し掛かる ちょうど入口ゾーンの傍らに、
そういえば、ずーんと、
一本のまん丸くこんもりした常緑の大木が、そうそう、そういえば、在った。
(人ってものは、自分が気にしないものは目にも入らないし、記憶にも呼び起こせないらしいもので)
ある明るい朝、
梢のあちこちにちらちらっと、ちらつく白い色に気づいた。
花だった。
この有名な植物のことは もちろん知ってこそ居たけれど、こんな真冬に花の咲くものだとは、
当時は知らなかった。
こういう花が咲くということも。
そして、こんな香りがするものだということも。
で、
さて、その正体は。
枇杷。
ビワ。でした。
珍しく(5分くらいなら)余裕のあった朝、
この木の傍らに自転車を止めて、近づいて、うんと鼻をすり寄せて、確かめてみた。
ああ、やっぱり。
桜餅だ。
まさに、あの。
甘くて、優しい、薄桃色の、上品な、
春の匂いだった。
*
彼の香りと知って以来、何年目かの冬を迎えて。
いつものごとく、自転車をウトウト漕ぎながらの、寒い夜の帰り路。
この桜並木「の、手前の枇杷」にいよいよ差し掛かる折、
「さあて今日は、どんくらい香ってくれているかな~」と、
このときばかりは引き千切らんばかりの寒さも忘れて、ふんわり、心を、春のように膨らませている。
*
いつもの桜並木道を通る。
桜並木に差し掛かるところで、
「ふわん、」と、
桜餅のような、甘い、品の良い、薄桃色の、あの匂いに包み込まれる。
かれこれ、12月の終わり頃から。1月半ばの今に至るまで。
当然、桜の木立は、枯れ木の骨姿。
でも、
その香りは 桜並木の群れ為す、まさにその辺りの空間に、
まあるく、ふくよかに漂っていた。
誰だ?
辺りを見渡す。
*
初めてこの匂いを知ったのは、この道を通勤路にし始めた時だから、
かれこれ、4年ほど前の冬だったかしら。
桜ももちろんまだ全然咲く時期じゃない、なのに。もうどこかに、季節外れの狂い咲きが在るんだろうか?
夜の闇に目を凝らす。
枯れ木は枯れ木。冬木立。
夢でも見ていたのか、はたまた幻覚か、
いやいやありえない、たしかに眠いけど、さすがに寝てないし。
とりあえずびっくりして、闇の中をキョロキョロするも、
なにしろ闇の中。
(ーーー私の暮らすここら辺は、都内といえど都心ほど煌煌と常時照らされては居らず、むしろ結構暗い。それが心地好い)
なので、その夜は諦めた。
明くる明るい朝に「犯人」探しをするも、
夜にはふんだんに満ちて膨らんで居たはずの香りが、あまり感じられない。
奴はどうやら、夜に特別、ひときわ香り立つらしい。
また、冬風のきつい時には、鼻を刺す冷気も辛く、落ち葉か冬の土の香か、何かが邪魔をして、一瞬のあの香りを手繰るどころではない。
あの香りがいっそう広く大きく満ちるのは、冬の夜には珍しい、風のあまり無いおだやかな、ゆるい夜。
目には見えないし、いつまでもあるものでも無いし。
結局、
その妖しい匂いの正体は すぐには判らなかった。
その正体が判ったのは、しばらくしてから。
*
桜並木の長い道。そこに差し掛かる ちょうど入口ゾーンの傍らに、
そういえば、ずーんと、
一本のまん丸くこんもりした常緑の大木が、そうそう、そういえば、在った。
(人ってものは、自分が気にしないものは目にも入らないし、記憶にも呼び起こせないらしいもので)
ある明るい朝、
梢のあちこちにちらちらっと、ちらつく白い色に気づいた。
花だった。
この有名な植物のことは もちろん知ってこそ居たけれど、こんな真冬に花の咲くものだとは、
当時は知らなかった。
こういう花が咲くということも。
そして、こんな香りがするものだということも。
で、
さて、その正体は。
枇杷。
ビワ。でした。
珍しく(5分くらいなら)余裕のあった朝、
この木の傍らに自転車を止めて、近づいて、うんと鼻をすり寄せて、確かめてみた。
ああ、やっぱり。
桜餅だ。
まさに、あの。
甘くて、優しい、薄桃色の、上品な、
春の匂いだった。
*
彼の香りと知って以来、何年目かの冬を迎えて。
いつものごとく、自転車をウトウト漕ぎながらの、寒い夜の帰り路。
この桜並木「の、手前の枇杷」にいよいよ差し掛かる折、
「さあて今日は、どんくらい香ってくれているかな~」と、
このときばかりは引き千切らんばかりの寒さも忘れて、ふんわり、心を、春のように膨らませている。
*