「金融緩和では対応しきれない問題が積み残されたままだ。」
「将来の年金の給付水準低下や医療保険の負担増が家計を圧迫するのではないか。改善しない子育て環境や、非正規雇用の増加―。不安材料は枚挙にいとまがない。」
「買い入れを永久に続けることはできない。出口戦略に失敗すると国債価格暴落と金利急上昇を招きかねない。緩和終了に向けた道筋も検討するべき時に来ている。 」
<信濃毎日社説>金融緩和3年 壮大な実験は限界だ
大規模金融緩和という日銀の壮大な実験が始まり3年となった。 世の中に出回るお金の総額を大幅に増やす。「常識を超えて巨額」(黒田東彦総裁)な緩和策の功罪を、詳細に検証しなければならない。
確かに3年前に比べると円安が進み、株価は上昇した。それでも企業の設備投資や個人消費は、日銀の思惑通りに拡大しない。
2%の物価上昇目標を2年程度で達成するとした宣言は空振りに終わり、上昇率はゼロ%で低迷する。1日に日銀が発表した企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の業況判断指数(DI)が、大規模金融緩和の開始直後の水準まで落ち込んだ。
中国の経済減速や原油価格の下落など、外的要因の影響の大きさは否定できない。それでも金融緩和の限界は明白だ。
日銀はいま、4月下旬の金融政策決定会合で追加金融緩和が必要かどうかを検討しているという。マイナス金利政策の拡大のほか、長期国債の買い入れ増などが想定されている。追加策を実施しても効果は限定的だろう。慎重に判断するべきだ。
日銀の政策の狙いは、流通するお金の量を増やして、将来の物価が上昇するという予測を広め、消費を刺激することだった。そうなれば企業の売り上げ増が新たな投資につながる「経済の好循環」を実現できる。円安と株高で大企業の収益が増えれば、労働者の賃金が増える「トリクルダウン」も消費を後押しする。そんなふうに考えていた。
日銀が見落としていたのは、企業や消費者の将来に対する大きな不安感だ。
新興国が台頭し、国内の新たな基幹産業が見いだせない日本経済の成長が今後も続くのか。将来の年金の給付水準低下や医療保険の負担増が家計を圧迫するのではないか。改善しない子育て環境や、非正規雇用の増加―。不安材料は枚挙にいとまがない。
企業や消費者が消費せずに貯蓄を増やす背景を見誤ってはならない。金融緩和では対応しきれない問題が積み残されたままだ。
日銀は現在、長期国債の保有残高を毎年80兆円ずつ増やしている。政府が本年度に市場で発行を予定している総額の約8割を日銀が買い取る計算になる。
買い入れを永久に続けることはできない。出口戦略に失敗すると国債価格暴落と金利急上昇を招きかねない。緩和終了に向けた道筋も検討するべき時に来ている。