<毎日新聞>信託規制に反対 課税逃れ対策 EU3年前検討
【ロンドン坂井隆之】課税逃れ対策のため欧州連合(EU)が3年前に検討していた信託への規制に対し、キャメロン英首相が反対していたことが分かった。首相は当時、主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)議長として「課税の透明性」を最優先議題に掲げ、対策強化を呼びかけていた。
租税回避地(タックスヘイブン)の利用者を暴露した「パナマ文書」で、キャメロン首相の亡父が租税回避地の英領バージン諸島に投資ファンドを設立していた疑惑が浮上し、野党の批判にさらされている。当時規制強化に関わったオランダの議員は「英国の(反対)姿勢は抜け穴を温存するもの」と批判している。
信託は、お金や土地などの財産を持ち主(受益者)から譲り受けた上で、受益者のために管理する制度。信託銀行が遺言に沿って財産を管理する「遺言信託」や、資産運用会社が投資家からお金を集めて運用する「投資信託」などに使われる。ただ、財産がいったん信託に名義ごと移されると本来の所有者がわかりにくくなるため、脱税や違法資金の隠蔽(いんぺい)に悪用されているとの批判がある。
キャメロン首相は13年6月のG8で、実体のないペーパーカンパニーを使った資産隠しを防止するため、海外であっても法人の実質所有者の登録・公開を義務づける制度を提唱した。だが、EUが同制度に信託も含めることを検討したため、同年11月に欧州理事会や欧州議会に書簡を送り、「企業と信託の違いを認識するのが重要だ。登録制度は全てに適切というわけではない」と反対した。書簡の内容を6日に報じた英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、現在も英国では信託は納税に関係する場合のみ実質所有者を報告する制度になっているという。