アメリカは、中国との政治・経済的な結びつきを無視して、対立することは不可能です。したがって、中国経済が抱える問題をできる限り、穏やかに改善することに協力する以外に選択肢はありません。
中国が抱える外貨は、アメリカ国債の保有を含めて、アメリカ経済と政治の命運を握ってもいます。アメリカ、イギリス、日本などの資本主義国が、アメリカ経済に依存し、アメリカ政治経済に従っている(追従している)もとでは、中国の経済的問題を無視することは不可能です。
<フィナンシャルタイムズ>中国経済が世界に突きつける難題
中国が試みている経済的な移行は、中国自身のみならず世界のほかの国々にも大きな影響を及ぼす。短期的には、中国の経済活動の急減速かもしれない現象からの波及を管理することが課題になる。長期的には、中国という金融大国の世界経済への統合にいかに対処するかが課題になる。だが実際には、短期的な出来事が長期的に何が起こるかも決めることになるだろう。
インドがまとめた最新の「エコノミック・サーベイ」には、危機が外国にもたらす衝撃は、1)その危機はシステム上重要な国で起こっているのかどうか、2)政府の借り入れの結果なのか、それとも民間の借り入れの結果なのか、3)危機が発生した国の通貨は上昇しているのか、それとも下落しているのか、という3点によって決まる。
この分析と中国との間にどんな関係があるのか。その答えは、中国はシステム上重要な国であり、すでに額が大きく、なお急増する企業部門の債務に頭を悩ませている国だからだ、というものになる。この状況は、突然の投資急減と急激な人民元安につながっていくかもしれない。
そのような急減速があり得ないということは全くない。究極的には持続しえない企業債務の増加と、極めて高い投資率に需要が依存している状況とが重なれば、そこに生じるのは脆弱性だ。
経済成長率が低下して年率7%を下回るようになった以上、国内総生産(GDP)の45%を投資が占める状況は、もはや経済の理にかなわない。また、この投資の3分の2近くは民間セクターによるものだ。このため、市場の力によって痛みを伴う調整を強いられるかもしれない。
政府の対応は2種類考えられるだろう。1つは、西側諸国の金融危機の際に見られたような財政赤字の大幅拡大。もう1つは、より積極的な金融政策だ。しかし、為替レートの下落は、国内のデフレ圧力を打ち消す要因としても歓迎されるかもしれない。
北京で3月に開催された中国発展ハイレベルフォーラムで中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、莫大な(かつ計画外の)規模に積み上げられた外貨準備高を減らすことは理にかなっていると語った。とはいえ、それにも限度があるに違いない。中国の資本勘定開放計画には逆行するものの、資本流出の規制が強化される可能性もあるだろう。
中国の景気は弱ってきており、金融政策と信用政策は緩和されて為替レートも下落しているが、そのような危機はまだ見られない。
資本流出の主たる原動力も、外貨建て債務の前倒し返済と「キャリートレード」の巻き戻しであるようだ。部分的には、これは人民元安のリスクが大きくなったとの見方がきっかけになっている。
だが、需要の伸びは弱まってはいるものの、腰折れしたわけではない。今のところは、まず良好だ。ただ、この話はここで終わらない。
世界経済は今、巨大なデフレショックを再度吸収できる状況にはない。そして、そのようなショックが中国で今後数年のうちに発生する可能性は現実にある。しかし、もっと長期的な問題も1つ浮上している。中国をグローバル金融システムにどのように統合させるのかという問題だ。
過去の経験を見る限り、自由化と脆弱な金融システムの開放を同時に行うと、大きな危機に至ることが多い。また、その国がシステム上重要な国である場合、そうした危機は世界規模のものになる。変動相場制が打撃を和らげてくれる可能性もあるが、たとえそうだとしても、システム上重要な国の危機は多大な影響をもたらす。
従って、中国が金融システムを世界に開放することは、世界全体が関心を払うべき事柄だと見なさなければならない。これについては、オーストラリア準備銀行(中央銀行)が先日公表した論文で、いくつかのリスクを説明してくれている。重要なのは、証券投資資金の流入と流出がそろって激増する可能性があることだ(中国では、まだどちらもさほど多くないレベルにとどまっている)。
現在、資金の流出は厳しく規制されている。だが、その規模を考えてみよう。中国の2015年の総貯蓄は約5兆2000億ドルで、米国のそれは3兆4000億ドルだった。また、中国のマネーサプライ指標でカバーする範囲が最も広い「広義のマネーストック」は昨年末時点で15兆3000億ドルあり、総信用供与残高は同じく昨年末時点で約30兆ドルだった。つまり、中国は貯蓄超大国だ。
資金流出の規制が解除されれば、資産分散と資本逃避のために総額ベースで大規模な資金流出が生じることは想像に難くない。もしそのような巨額の流出に見舞われれば、3兆2000億ドルに達する現在の外貨準備でもすぐに枯渇してしまうだろう。
外国の証券投資資金による中国の資産への投資需要も恐らくあるだろうが、それを現実化するのに必要な国内政策と制度改革は、普通では考えられないくらいほどハードルの高いものになりそうだ。
従って、中国の資本勘定自由化は、中国からの多額の資金純流出、人民元安、そして経常収支黒字の拡大をもたらす可能性は高い。投資の減少もこれに拍車をかけるだろう。
このような変化をどうすれば受け止められるのか、想像するのは難しい。なぜ難しいのかは、中国以外の国々の資産市場、為替レート、および経常収支にどのような打撃が及びうるかを考えればすぐ分かる。
3月の中国発展フォーラムで演台に上った国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、次のように的を射た発言をしていた。
「世界経済の統合が進めば、貿易や金融、あるいはマインドの変化を通じて影響が波及していく可能性も高まる。統合が続く中、効果的に協力することが国際金融システムを機能させる上で非常に重要になっている。これには、すべての国々が一致協力して行動することが必要だ」
目下、中国経済における目下のストレスと、中国を金融面で統合するという長期的な難題とに協力して対応・管理することほど重要なことはない。
もしどちらかで対応を誤れば、統合されたグローバル経済システムには耐えがたい圧力がもたらされる恐れがある。世界経済はまだ、西側の金融危機の余震への対応に苦慮している段階にある。世界は中国の危機への対応に完全に失敗するかもしれない。新たな金融覇権国が前回台頭したときに、世界経済は大恐慌に苦しんだ。今度はもっと上手に対応しなければならない。