興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

呼び水?  プライミング(Priming)効果

2006-10-08 | プチ認知心理学

プライミング(Priming)という概念は、認知心理学で
よく使われるもので、この現象における様々な実験や
研究が行われている。

該当する日本語がないので、カタカナで「プライミング」と
そのまま訳されているため、なんだかピンと来ない言葉
だけれど、これは、私たちの日常生活でも非常にしばしば
起こっている現象だ。

プライミングとは、広義に、「先行する刺激の脳における
受容が、後続する刺激の処理に無意識的な促進効果を
与える」ことで、直接プライミング、間接プライミング、
知覚的プライミング、概念的プライミングなど、いろいろな
種類のものがある。

例えば、これは良くある実験だけれど、
プライム刺激(先行刺激)として、いくつかの
単語(例:「おしるこ」)を被験者に見せて、
一定時間後、穴埋め式の単語完成テスト
(例:「お○○こ」)をすると、プライム刺激の中にあった
単語についての単語完成テストの項目は、プライム刺激の
中になかったものにおける単語完成テスト項目よりも、
正答率が高いことが知られている。

また、自由連想テストで、プライム刺激として
いくつかの単語(例:おしるこ)を被験者に見せたあと、
一定時間後、自由連想テスト(例:小豆→?)を行うと、
プライム刺激にあった単語の方が、なかった単語よりも
連想語として出現しやすいことが知られている。

ここで重要なのは、プライム効果とは、無意識のうちに
起こっていることで、本人はそれに気付いていないことだ。
また、プライム刺激の露呈時間は長い方が効果的だけれど、
かなり短いもの(2秒とか)でも影響があることが
知られている。サブリミナル効果など、これに該当する。

プライミングの効果は、多岐に渡るもので、人間の
行動パターンや、選択などに、大きな影響を与えている。
それは、人の持つ敵意や反感、歩行スピード、知能テスト
など、本当に様々な行動に影響を及ぼしている。

例えば、年寄りについての人物描写を読んだ後の被験者の
歩行スピードが、それを読まなかった場合に比べて
遅くなったり、「教授」についての人物描写について
読んだ後に受けた知能テストのパフォーマンスが、
普段よりも良く、「サッカーのフーリガン」についての
人物描写について読んだ後の知能テストの結果が、
それを読まない場合よりも悪いという実験結果も
報告されている。

考えてみると、これはある意味で恐ろしいことである。

私たちが、普段何気なく選んでいる行動パターンや、
取捨選択や、人や物事に対する印象や感想などが、
実は、それより前に起きている様々な事象によって
無意識的な影響を受けているというのだ。

例えば、日常生活で、ちょっとしたいい事(例:
楽しい話、気に入った音楽、おいしい物、好きな人と
会う)が、数時間後の言動に与える微妙な影響は、
ちょっとした不快な事(例:チューインガムを踏む、
知らないカップルの激しい口論を聞く、傘を持って
いない時に突然の土砂繰りに遭遇する)が
数時間後の言動に与える微妙な影響とは明らかに
違うということは、経験的に誰でもわかることだと思う。

ここでもう一度強調したいのは、それらのプライム刺激は
微妙なものだったり、数時間前のことだったりして、
基本的に、私たちは、知らず知らずのうちに、そうした
プライミングに動かされて生きているということだ。

もちろん、そんなことを言い出したら、切りがないし、
私たちは日常生活で次々にいろいろなことを体験して
生きているわけで、プライミングの影響なしに生活するのは
不可能だけれど、少なくとも、何か重要な選択を迫られて
いて、今まさに自分が選ぼうとしているものが、実は
数時間前の些細なことに影響されているのではないかと
一瞬でも思いを巡らせてみるのはいいことかも知れない。