恋愛関係、婚姻関係のカップルの別れには、大きく分けて、2種類あると言われています。
まず、一つ目のパターンですが、これは、特に仲が悪いわけでもなく、決定的な喧嘩などがあったわけでもなく、付き合ってはみたものの、なんとなくそれ以上関係が深まることもなく、どちらかともなく別れを切り出したり、或いは「自然消滅」的なフェイドアウトによって、その関係が終わってしまうものです。こうした別れにおいて、あなたはトラウマになるような痛みは経験しません。もちろんそこには一過性の悲しみ、怒り、腑に落ちなさなどはありますが。
もう一つのパターンが、今回テーマになっている「権威闘争」(Power struggle、パワーストラグル)の伴う場合で、この場合、前者と比べて明らかにあなたはその相手とのこころの繋がりは深いです。趣味を共有していたり、価値観や哲学や社会的関心などが共通であったり、知的レベルが同様であったり、セックスのケミストリーが抜群であったり、そこにはいろいろな理由があるでしょう。
そして、そのようにふたりで共有しているたくさんのものがあって、互いに深いつながりを感じているにも関わらず、どうしても相容れないものがあり、そのために起きるどうしても繰り返される喧嘩や口論、そうした頻繁に起きる争いのときの傷つけあうことの痛みに遂に耐え切れずに、大きな未練はあるものの、どうしようもなく別れを選ぶ、というケースです。このような別れは、どちらが別れを切り出したにしても、それぞれにとってものすごい痛みを伴うもので、その別れはしばしばその人にとってトラウマティックなものとなります。
それで、どちらのパターンの相手が、あなたの人生において深い関係のあった人であったか、運命の相手の可能性があったかと言えば、それはもちろん後者です。彼らの争いは非常に苦痛なものですが、そこには深い繋がりもあるので、多くの場合、このケースのカップルは、なんとかならないものかと一生懸命奮闘します。カップルセラピーにやってくるカップルの多くが、このパターンであると聞いても、あなたはあまり驚かないでしょう。
前者の場合、争いもあまりないけれど、繋がりも強くない分、別れにおける葛藤も迷いも少なく、カップルセラピーの出番はそれほど多くありません(脚注1)。一方、後者の人たちは、そのこころの繋がりが深く、互いに特別な存在であることが直感的、経験的にわかっているので、どうせ別れるのであれば、その前に最後の手段としてカップルセラピーを試したい。カップルセラピーをせずに別れてしまってはきっと後悔する、そういう思いから、カップルセラピーの門を叩きます。
カップルセラピーのなかでも、特にImago Relational Therapy は、こうした人たちにおいて、非常に有効であることが知られています (イマゴ セラピー。Imago (イマゴ)とは、ラテン語でImageを意味します)。Imago Relational Therapyにおいて、彼らの権威闘争は、「権威闘争期」というカップルの関係性における中期のステージであり、この互いに傷つけあう権威闘争期をうまく乗り越えて、さらに深く繋がり、分かり合え、互いに高め合える、真の人生のパートナーとしての最終ステージ、Conscious partnership stage (深い意識と自覚のあるパートナーシップ)にたどり着きます。Conscious partnership stage においても、自然な口喧嘩はときに起こりますが、権威闘争期のような、互いを傷つける種類のものではなく、相互理解やサポートに繋がるものです。次回はこの権威闘争とは具体的に何か、また、Imago Relational Therapyとはどのようなものかについて、お話しようと思います。
*************************
(脚注1)とはいっても、「自分たちはこのまま付き合いを続けるべきなのだろうか」、「このまま別れるべきなのかいまいちわからない」、というカップル、また、どちらか一方は一緒にいたいけれど、もう一方は別れたい、という例も少なくありません。こうしたケースにおいてもカップルセラピーは有効です。彼らはカップルセラピーを通して、自分自身と相手における理解を深め、混乱を解消し、クリアーなマインドで、冷静な判断ができるようになります。これで関係が深まるカップルもいれば、別れを選ぶカップルもいます。しかし、もやもやした、いまいち判然としないなかで、衝動的に別れてしまうよりも、こうしたプロセスを通してきちんと理解して別れるほうが、お互いにとって良いことはいうまでもありません。この理解があるのとないのとで、次にあなたがどのような人と付き合ってどのような関係を築くのかに大きな影響があるからです。