男もすなるブログというものを、男である私もしてみんとてするなり。
今回紹介する作品は全然わからないなり、それでもわからないなりに書こうとするなり。
本日は先週発売されたceroの4枚目『Poly Life Multi Soul』を。
以前にも彼らのことは紹介しましたね、その時の記事はこちら。
今作、皆さんはどう感じましたか?
私は最初に聴いた時、正直「さっぱりわからん…」と思いました。もちろんM2「魚の骨 鳥の羽」は前から聞いていたし、M3「ベッテン・フォールズ」やM8「Double Exposure」はすぐビビっときました。でもなんだか途中でレイモンド・カーヴァーの短編「夜になると鮭は…」の朗読が入るし、全体的にリズムは複雑だし、前作までに比べてキャッチーな曲が少ないようにも感じられたのです。
いや、これは私の理解が浅いせいに違いない。
繰り返していくうちにきっと良さがわかるはず!!
そう思って1週間、何度も繰り返し聴きました。
そして一つの結論に到達したのです。
さっぱりわからん…!!
ん?身も蓋もない?本当は考えてないんじゃないかって?やかましいわ!
このアルバムのタイトル『Poly Life Multi Soul』が物語っているように、おそらく無数の生命や魂のことを曲にして歌っているわけで、そんなに簡単にわかるものじゃないってことなんです。
え?こじつけ?そうやって人のことばかって言った人がばかなんですー!な、泣いてねーし!
さて前作は「砂漠」がひとつのキーワードでしたが、今回は「川」のようです。歌詞に「川」「水」といった単語が何度も出現するし、夜になると鮭は川を出て街にやって来るし、「遡行」や「Water」というタイトルの曲もあります。では彼らは、この言葉で何を表現しようとしているのでしょう?
川には絶えず「流れ」があります。いくつか小さな支流が集まって、大きな「流れ」を形成する。その点で人とも共通しています。家族や友人などの小さな集団があり、考え方や価値観を共有する大きな集団があり、それが「流れ」を形成しています。時間の流れであったり、社会の流れであったり。人はみな、大きな流れのなかで生きています。
また、「川」は人が定住する最初の場所でした。世界史で習った四大文明は、常に大きな川の側で発展しました。いいかえれば、川は「生活」や「文化」の源でもあるのでしょう。人々の営みが芽生える場所だったのです。そしてその営みが脈々と続き、今の私たちの生活があると言えます。
そういうこともあって、歌詞の中では「Modern Step」とか「ナトリウムランプ」とか近代的な言葉も出てくるんだけど、どこか「神話」や「おとぎ話」を歌っているようにも感じます。それはM9「レテの子」がギリシャ神話に出てくる「忘却の川 Lethe」に由来することや、M3「ベッテン・フォールズ」が日本神話に出てくる「別天つ神(コトアマツカミ)」を連想させるからでしょうか。M2「魚の骨 鳥の羽」でも
私たちのなかを せわしく蠢く何か
と繰り返し歌っている。もしかしたら、地下水脈のごとく続いている人間の神話的、無意識的な面を歌っているのかな、ユング派の語る「集合的無意識」のような。ちょっとこじつけかもしれませんが。
ずいぶん頭でっかちな話になってしまった。
ここらで音楽について。
前作からその片鱗は見えていましたが、アルバム全体を通してリズムが非常に複雑です。1つの曲の中で4/4拍子や6/8拍子が切り替わったり、バイテンになったり。ベースやドラムが裏拍で入ることも多いし、リズム隊が敢えてカッチリ合わせていない、それぞれが別のタイミングで別のことをしているからか、多層的な作りになっています。このへんもまさにアルバムタイトルっぽい。
サポートメンバーが変わったのも大きく影響しているのでしょう。女性コーラスが入ったこともあって、アルバム全体を通して艶めかしさがあります、ウェットな感じがにじみ出ている。それから耳を凝らすと、いろんなところでいろんな音(パーカッション、コーラス、シンセ)が聴こえてきて、隠し味になっている。ラーメンにコショウを入れた時みたいに、結構大きな役割を果たしているんじゃなかろうか。
ここまでを読むと「歌詞が難しくて、リズムが複雑なのとかぶっちゃけ好きじゃなぃ。マヂ無理…チャゲアス聴こ…」と思う方もいるかもしれません。とはいえ美しい曲、ノリの良い曲、思わずステップを踏みたくなる曲も多いのです。
個人的に好きなのはM3の「ベッテン・フォールズ」、M4「薄闇の花」、ここは曲間のつながりもすごく好きです。それからかわいらしいシンセで始まるM8「Duble Exposure」はAメロディが綺麗だし、タイトルトラックのM12「Poly Life Multi Soul」は、鍵盤の音が儚く、寂しい感じがしていいですね。ドラムが刻むリズムも素敵。
時折繰り返される謎のフレーズも好きです、「このテンポでこのテンポで 踊ろうよさあ踊ろうよさあ」とか「はるか川上の光を見よ」とか。
残念ながらYouTubeには「魚の骨 鳥の羽」しか音源がありませんが、我こそは「わからん!」と思いたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
本作の率直な感想を書くと、「これもいいけど、なんか違う」です。Radioheadの『Hail to the Thief』を初めて聴いた時と似ている。
自分が好きなミュージシャンだからと言って、すぐ☆5をつけるように、無理に理想化して褒めあげたくはない。それに本作が10年20年経っても聴き継がれる名盤かどうかと言われると、自分のなかではうーんって感じです。ハードル高すぎるかな、前作がよかったのもありますし、途中で出したシングル「街の知らせ/ロープウェー」がすごく好きだったのもある。あの路線なのかな~、と思ってたら良くも悪くも期待を裏切られたというか。
でもひとまず6月に彼らのライブに行く予定なので、それに行くまで判断は保留です。どうやってライブで表現するのか、彼らの生み出す「流れ」がとても楽しみです。