私『じゃーねぇ、真希。また明日ー。』
私は親友の真希と別れ、バイト先へと向かっていた。
昨日から真希の様子がおかしい。
身体的なことではなくて、雰囲気というか、なんというか…。
一昨日までは特に違和感は無かったんだけど、昨日から、真希でいて真希で無いような……。
自分でも訳が分からない、そんな感覚に陥っていた。
それでも、やっぱり真希はカワイイ。
真希とは、大学のテニスサークルで知り合った。
外見はとても可愛いくせに、それを鼻にもかけず、
誰とでも分け隔てなく話し掛けてくれた。
そんな真希に、私は憧れも抱いていた。
気さくな真希と親友になるまでに、時間は掛からなかった。
あーあ。
私も真希みたいに可愛いかったらなぁ……。
そんなことを思いながら、私はバイト先の
【ドクマナルド】へと足を運んでいた。
ゼミの講義が長引いてしまったこともあり、辺りは既に暗くなりつつあった。
バイトの時間までは、軽く1時間くらい余裕があった為、なんとなく普段通らない道を歩くことにした。
改めてバイト先周辺を歩いてみると、今まで気付かなかったオシャレなお店を知ることが出来た。
今度は真希を誘って来てみようかな。
細い路地を歩いていると、街灯の下で何やらぶつくさと独り言を呟く男性がいた。
黒のスーツ、黒のサングラス、黒の鞄、黒のシルクハットを被った、全身黒一色の、遠目からでも怪しさ100%の男性がそこにいた。
その風貌からは、決して近付いてはならない危険度の高い人物だと私の脳が直感してい
男『アイヤー、またダメネー!!これで50回目ネー!そこ行くお嬢さん、ちょっとだけ手伝て欲しいネ!』
……んっ?
私『…え?私?』
男『他に誰がいるネ?』
辺りを見渡したが、私以外通行人はいなかった。
私『…、どうされたんですか?』
男『シェイシェイ、アル!実は、この大事なスーツの第二ボタンがほつれて取れそうなのネ。
緊急措置で、針の穴に糸通そうとしてたネ!』
私『こんな所で裁縫、ですか?』
男『そうネ。もう1時間近く針と糸とを交互に見てるネ!
右肘と左肘よりも見てるネ。
全然糸が通らないアル!!』
私『サングラス、外せば?』
男『誰かさんみたいに、キャラ崩壊するネ。では、コレネ、任せたアル!』
男性は強引に私に針と糸を渡してきた。
私はすんなりと針に糸を通すと、男性に渡した。
男『アイヤー、お嬢さん、毛先がとても器用ネ!』
私『手先だよっ!じゃあ私はこれで。』
男『これ、お詫びネ、受け取るヨロシ。』
そう言うと、男はスーツの第二ボタンを取り外し、私に渡してきた。
私『えっ!?な、なんで?』
男『第二ボタン、女子喜ぶネ。これ風習ネ。』
私『いや、それ学生に限ったことだし、いらないしっ。そもそも、コレ取り付けようとしてたんじゃないの!?』
男『気が変わったネ。』
私『いや、変わらなくていいからっ。』
私は気味が悪くなり、その場から離れようとした。
すると
男『…待つネ……。』
男性が低い声で私を呼び止めた。
その低い声のトーンからは、今からこの男性に身の毛もよだつような恐ろしいことをされるのではないか、と私に思わせ
男『まだ自己紹介してないネ…。ワタシ、陳ゆうネ。子供からはよく陳、』
私『私、バイトあるんで、失礼します。』
陳『……、時間は取らせないネ。お嬢さん、何かお悩み事ないカ?』
陳と名乗る男性は、私から時間を奪っておきながら、そう言った。
私『悩み、か。無いと言えば嘘になるかな…。』
陳『嘘、よくないネ。嘘で人生塗り固める日々、虚しいだけネ。』
私『ちょっ!塗り固めてないし、いきなり初対面の人に対して失礼だし!』
陳『さっさと言うネ!こっちだって時間ないネ!』
私『あっ、す、すいませんっ。』
………ん?
なんで私が怒られて、しかも謝らないといけないの!?
目の前の陳と名乗る男性は、鼻息を荒げながら私を見ている。
…仕方ない、さっさと話してこの場を離れるしかないようだ。
私『…もっと、可愛くなりたい……。』
陳『定年制度が65歳から70歳に延びるのは、確かに深刻な悩みネ。でも、そればっかりは陳でもどーすることも出来ないネ。むしろ、ワタシも被害者ネ。』
私『違うっ!!どんな耳してんのっ!?もっと可愛くなりたいって言ったの!』
陳『大きな声出して、恥ずかしくないカ?』
私『誰のせいよ、誰の!』
そう言うと、陳はしゃがみ込み、持っていた黒い鞄をゴソゴソと漁りだした。
私もしゃがみ込み、陳に話し掛けた。
私『なにしてんの?』
陳『もっと可愛くなりたいネ?そのお悩み、解消出来るモノ、あるかもしれないネ。くくく。』
陳は鞄の中から何かを取り出した。
陳『あった、あったネ。コレ、ネ!』
陳が取り出したのは、何の変哲も無いファンデーションだった。
私『ただのファンデじゃん。』
陳『ただのファンデーションと違うネ……。』
陳の声が一段と低くなった。また、サングラスの中の眼光も怪しく光る。
その様子から、ただのファンデーションでは無いことが分か
陳『税込みで5980円ネ。ただ、と違うネ。』
私『高っ!バカじゃないの!?』
陳『くくく、嘘ネ。本当は1980円ネ。』
私『…嘘、ついてんじゃん…。』
陳はファンデーションを手にしながら説明し始めた。
陳『寝る前に、このファンデーションでお顔をヌリヌリするネ。優しく、ゆで卵を握り潰すようにゆっくりと、ネ。』
私『…や、優しい?』
陳『その時に、可愛くなりたい、近付きたいと思う理想の人物を強くイメージするネ。』
私『う、うん。…それで?』
陳『そのまま安らかに眠ったように死ぬヨロシ。』
私『死んだように眠る、ね!!』
陳『むしろ死ぬネ。』
私『お断りだよっ!』
渋々、財布からお金を取り出し、ファンデーションを受け取った。
陳『可愛くなること50%間違いなしネ!』
私『半々かっ!』
バイトの時間に間に合わなくなる為、陳に別れを告げ、バイト先へと向かった。
バイトが終わり、一人暮らしのアパートへと帰宅した。
お風呂に入り、しばしSNSサイトを見た後、翌朝も早くから講義がある為寝ることにした。
あ、そうだ。
明日の講義の準備をしようと鞄の中を整理していると、何かが床に落ちた。
すっかり忘れていたが、あのファンデーションだ。
騙された感たっぷりだったが、好奇心に負け、ファンデーションを顔に塗り始めた。
私『真希みたいに綺麗になりたいなぁ。』
そして私は眠りへと落ちた。
翌朝、鳥の鳴き声で目を覚ました。
時計を見ると、既に家を出なければならない時間を針が指していた。
ウソっ!? やばっ!!
慌ててクローゼットにかけてあった服を適当に手に取り着替え、化粧もせずにすっぴん状態のまま家を飛び出した。
擦れ違う人達が、走る私の顔を見る。
うわぁー、すっぴん恥ずかしいーっ!!
電車の中では、終始下を向いたまますっぴんを隠していた…。
大学までやってきた時、見慣れた後ろ姿を発見した私は、小走りで彼女の元へと駆け寄った。
私『おっはよー、真希!』
真希が振り返る。
が、いつもの笑顔はそこに無かった。
あったのは、青冷めた彼女の表情と、おはようの代わりに呟かれた言葉だった。
真希『な、なんで……なんで真希が…』
私は、真希の言っている言葉の意味が分からなかった。
陳『アイアイヤーっ!!困たネ!あのファンデーションの説明間違えてたネ!!あのファンデーション使用してしまうと………、ま、ワタシには関係無いネ。ポケモソの続きやるネ。』
私は親友の真希と別れ、バイト先へと向かっていた。
昨日から真希の様子がおかしい。
身体的なことではなくて、雰囲気というか、なんというか…。
一昨日までは特に違和感は無かったんだけど、昨日から、真希でいて真希で無いような……。
自分でも訳が分からない、そんな感覚に陥っていた。
それでも、やっぱり真希はカワイイ。
真希とは、大学のテニスサークルで知り合った。
外見はとても可愛いくせに、それを鼻にもかけず、
誰とでも分け隔てなく話し掛けてくれた。
そんな真希に、私は憧れも抱いていた。
気さくな真希と親友になるまでに、時間は掛からなかった。
あーあ。
私も真希みたいに可愛いかったらなぁ……。
そんなことを思いながら、私はバイト先の
【ドクマナルド】へと足を運んでいた。
ゼミの講義が長引いてしまったこともあり、辺りは既に暗くなりつつあった。
バイトの時間までは、軽く1時間くらい余裕があった為、なんとなく普段通らない道を歩くことにした。
改めてバイト先周辺を歩いてみると、今まで気付かなかったオシャレなお店を知ることが出来た。
今度は真希を誘って来てみようかな。
細い路地を歩いていると、街灯の下で何やらぶつくさと独り言を呟く男性がいた。
黒のスーツ、黒のサングラス、黒の鞄、黒のシルクハットを被った、全身黒一色の、遠目からでも怪しさ100%の男性がそこにいた。
その風貌からは、決して近付いてはならない危険度の高い人物だと私の脳が直感してい
男『アイヤー、またダメネー!!これで50回目ネー!そこ行くお嬢さん、ちょっとだけ手伝て欲しいネ!』
……んっ?
私『…え?私?』
男『他に誰がいるネ?』
辺りを見渡したが、私以外通行人はいなかった。
私『…、どうされたんですか?』
男『シェイシェイ、アル!実は、この大事なスーツの第二ボタンがほつれて取れそうなのネ。
緊急措置で、針の穴に糸通そうとしてたネ!』
私『こんな所で裁縫、ですか?』
男『そうネ。もう1時間近く針と糸とを交互に見てるネ!
右肘と左肘よりも見てるネ。
全然糸が通らないアル!!』
私『サングラス、外せば?』
男『誰かさんみたいに、キャラ崩壊するネ。では、コレネ、任せたアル!』
男性は強引に私に針と糸を渡してきた。
私はすんなりと針に糸を通すと、男性に渡した。
男『アイヤー、お嬢さん、毛先がとても器用ネ!』
私『手先だよっ!じゃあ私はこれで。』
男『これ、お詫びネ、受け取るヨロシ。』
そう言うと、男はスーツの第二ボタンを取り外し、私に渡してきた。
私『えっ!?な、なんで?』
男『第二ボタン、女子喜ぶネ。これ風習ネ。』
私『いや、それ学生に限ったことだし、いらないしっ。そもそも、コレ取り付けようとしてたんじゃないの!?』
男『気が変わったネ。』
私『いや、変わらなくていいからっ。』
私は気味が悪くなり、その場から離れようとした。
すると
男『…待つネ……。』
男性が低い声で私を呼び止めた。
その低い声のトーンからは、今からこの男性に身の毛もよだつような恐ろしいことをされるのではないか、と私に思わせ
男『まだ自己紹介してないネ…。ワタシ、陳ゆうネ。子供からはよく陳、』
私『私、バイトあるんで、失礼します。』
陳『……、時間は取らせないネ。お嬢さん、何かお悩み事ないカ?』
陳と名乗る男性は、私から時間を奪っておきながら、そう言った。
私『悩み、か。無いと言えば嘘になるかな…。』
陳『嘘、よくないネ。嘘で人生塗り固める日々、虚しいだけネ。』
私『ちょっ!塗り固めてないし、いきなり初対面の人に対して失礼だし!』
陳『さっさと言うネ!こっちだって時間ないネ!』
私『あっ、す、すいませんっ。』
………ん?
なんで私が怒られて、しかも謝らないといけないの!?
目の前の陳と名乗る男性は、鼻息を荒げながら私を見ている。
…仕方ない、さっさと話してこの場を離れるしかないようだ。
私『…もっと、可愛くなりたい……。』
陳『定年制度が65歳から70歳に延びるのは、確かに深刻な悩みネ。でも、そればっかりは陳でもどーすることも出来ないネ。むしろ、ワタシも被害者ネ。』
私『違うっ!!どんな耳してんのっ!?もっと可愛くなりたいって言ったの!』
陳『大きな声出して、恥ずかしくないカ?』
私『誰のせいよ、誰の!』
そう言うと、陳はしゃがみ込み、持っていた黒い鞄をゴソゴソと漁りだした。
私もしゃがみ込み、陳に話し掛けた。
私『なにしてんの?』
陳『もっと可愛くなりたいネ?そのお悩み、解消出来るモノ、あるかもしれないネ。くくく。』
陳は鞄の中から何かを取り出した。
陳『あった、あったネ。コレ、ネ!』
陳が取り出したのは、何の変哲も無いファンデーションだった。
私『ただのファンデじゃん。』
陳『ただのファンデーションと違うネ……。』
陳の声が一段と低くなった。また、サングラスの中の眼光も怪しく光る。
その様子から、ただのファンデーションでは無いことが分か
陳『税込みで5980円ネ。ただ、と違うネ。』
私『高っ!バカじゃないの!?』
陳『くくく、嘘ネ。本当は1980円ネ。』
私『…嘘、ついてんじゃん…。』
陳はファンデーションを手にしながら説明し始めた。
陳『寝る前に、このファンデーションでお顔をヌリヌリするネ。優しく、ゆで卵を握り潰すようにゆっくりと、ネ。』
私『…や、優しい?』
陳『その時に、可愛くなりたい、近付きたいと思う理想の人物を強くイメージするネ。』
私『う、うん。…それで?』
陳『そのまま安らかに眠ったように死ぬヨロシ。』
私『死んだように眠る、ね!!』
陳『むしろ死ぬネ。』
私『お断りだよっ!』
渋々、財布からお金を取り出し、ファンデーションを受け取った。
陳『可愛くなること50%間違いなしネ!』
私『半々かっ!』
バイトの時間に間に合わなくなる為、陳に別れを告げ、バイト先へと向かった。
バイトが終わり、一人暮らしのアパートへと帰宅した。
お風呂に入り、しばしSNSサイトを見た後、翌朝も早くから講義がある為寝ることにした。
あ、そうだ。
明日の講義の準備をしようと鞄の中を整理していると、何かが床に落ちた。
すっかり忘れていたが、あのファンデーションだ。
騙された感たっぷりだったが、好奇心に負け、ファンデーションを顔に塗り始めた。
私『真希みたいに綺麗になりたいなぁ。』
そして私は眠りへと落ちた。
翌朝、鳥の鳴き声で目を覚ました。
時計を見ると、既に家を出なければならない時間を針が指していた。
ウソっ!? やばっ!!
慌ててクローゼットにかけてあった服を適当に手に取り着替え、化粧もせずにすっぴん状態のまま家を飛び出した。
擦れ違う人達が、走る私の顔を見る。
うわぁー、すっぴん恥ずかしいーっ!!
電車の中では、終始下を向いたまますっぴんを隠していた…。
大学までやってきた時、見慣れた後ろ姿を発見した私は、小走りで彼女の元へと駆け寄った。
私『おっはよー、真希!』
真希が振り返る。
が、いつもの笑顔はそこに無かった。
あったのは、青冷めた彼女の表情と、おはようの代わりに呟かれた言葉だった。
真希『な、なんで……なんで真希が…』
私は、真希の言っている言葉の意味が分からなかった。
陳『アイアイヤーっ!!困たネ!あのファンデーションの説明間違えてたネ!!あのファンデーション使用してしまうと………、ま、ワタシには関係無いネ。ポケモソの続きやるネ。』