標記の文庫本を読んだ。
この文庫本は、2002年に出した単行本を、2007年に新潮選書に加筆・修正、2015年の発行である。
著者の寺島実郎はテレビでもおなじみだが、1947年の北海道生まれ、1973年早稲田大学大学院政治学
研究科修士課程修了という。
この本の副題は、「1900年 アジア・アメリカの興隆」であり、この本には前半があり、そちらは
「1900年への旅 欧州と出会った若き日本」といい、この本はその後半ということである。
20世紀は19世紀の覇権国大英帝国から「アメリカの世紀」への移り変わる時代であった。
日本にあっては、日露戦争に勝利し、第一次世界大戦をへて、太平洋戦争に至る時代である。
我々の認識は、どうしても太平洋戦争に敗北しアメリカに占領された時代から始まるが、それ以前の歴史、
維新を経て、明治時代に列強に追いつき、さらに帝国主義的行動に移っていった時代を忘れていないか。
20世紀後半の日本は、戦後復興を実現し、その後高度成長を経て、GNPも世界第二位になるまで成長した
が、20世紀終わり近くになってバブルが破綻し、その後21世紀に至るも成長は伸び悩んでいる。
21世紀になって、ここ最近の歴史はまた20世紀の歴史を繰り返すような出来事が多く発生する様に
なっている気がする。ロシアのウクライナ侵攻により、第3次世界大戦になりわしないかという危険な時代
になっていると思う。
21世紀はアメリカでの同時多発テロによりスタートした。これは「アメリカニズムの終焉」の予兆なのか。
著者は、「アメリカの世紀」としての20世紀とその中に生きた先人たちの足跡を訪ね思索を深めたい
と書き出しを始めている。
内容は、
第1章 アメリカの世紀がアジア太平洋のもたらしたもの
第2章 国際社会と格闘した日本人
第3章 アジアの自尊を追い求めた男たち
第4章 二十世紀再考ー付言しておくべきことと総括
とりあえず読んだ中で、第2章にある「朝河貫一」と「松本健次郎」、「大島浩駐独大使」、
さらに第3章の「魯迅」と「周恩来」が興味深く、初めて知ったことも多く参考になった。
朝河貫一は、米国を舞台に活動した歴史学者である。この回の表題は「日本近代史を予言した男、
朝河貫一の苦闘と日米関係」である。
朝河は福島県出身、二本松藩士朝河正澄の長男として、二本松市根崎に生まれている。幕末維新の
「負け組」として育ち、立子山小学校から福島尋常中学、東京専門学校へ進学し、その後海外留学
への意欲を抱き1896年、米国ダートマス大学に留学した。その後、イェール大学大学院歴史学科
に入学、1902年博士号を授与されている。
朝河貫一は日清戦争直後に渡米して以来、日露戦争、第一次世界大戦、そして日米戦争と日本の敗戦を
海外から注視してきた。
彼は、この間の過程を観察し、英文で発表した「日露紛争」と日本文による著書「日本の禍機」の2冊を
発表している。「日露紛争」は海外に対する日本の擁護であったが、「日本の禍機」は日本への叱責であっ
た。朝河は、日本は帝国主義を後追いすることなく、道義をもってアジアに関わるべしという主張であった。
朝河が日本に寄せた役割期待は「覇権なきアジアの道義的指導者」であった。
朝河は晩年再び歴史の舞台に登場する。1941年秋、日米戦争回避のためのルーズベルト大統領から天皇に
宛てた親書を送る運動への参画である。大統領親書の草案作りに関わり、その親書は発信されたが時間的に
間に合わなかった。また親書の内容も朝河の草案とはかけ離れたものであったという。
このような日本人がいたことに驚く。それも東北出身者であったということ、叶わなかったとはいえ世界の
大勢を認識し、理念をもって日本人の進むべき道を示していたということ。これからの日本の指導者も
見倣うべきではないか。