好きな作家、佐藤雅美(まさよし)さんの作品である。
この作者のシリーズものを読むのは初めてだったが、読み始めて引き込まれた。
「八州廻り」というのは、正式には「関東取締役出役(しゅつやく)」といい、関八州の悪党者を取り締まる
役人の通称である。
主人公「桑山十兵衛」は男やもめで、事件を追って諸国奔走の日々を送る。
これまでの時代物の主人公は、奉行や同心など江戸市中の役人が多かったし、舞台も江戸の町の周辺というのが
おおよそであったが、この主人公は関八州が舞台なので、上州、野州、常州、武州、下総などを回って悪党者を
とらえるのが仕事である。江戸にもどると勘定奉行の配下となる。
この小説を読んでいて、江戸時代の諸国の領地の管理や今で言う警察権や裁判権についての話が、よくわかったので
その辺にも興味が持てた。
なかでも悪党者が有宿か無宿かでその取扱いが違う。よく時代劇で「無宿」とか「無宿人○○」ということがそれである。
江戸時代、事件が起きると犯人の人別帳が村にあると名主や親兄弟、親戚、村役人なども責めや咎を受ける。人別帳の
下に札をつけると「札付き」となる。これは要注意人物ということである。この人別帳の帳外になると「無宿」になる。
当時は、親兄弟、親戚、村役人が難儀をかけられるのを厭い、悪事を働きそうなものを先手を打って「無宿」にする
ことがあったという。「無宿」は江戸に送られ、江戸で調べを受けるという。
この巻は、確か7巻あるうちの始まりなので、桑山十兵衛の身の内や仕事の内容の説明などが多い。
今回の8話のうち、最後の話「霜柱の立つ朝」では、娘の八重を生んだ連れ合いの瑞江の密通相手を探して、
とんだ失敗をしてしまうという話もあった。
八州巡りの関八州巡回の旅の様子や地方の庶民や悪党者の様子など、現代とも通じる部分もあるので、これからも
続きを楽しんで読んでいきたい。