写詩之日々

写真と詩を載せています。

辿りついて

2024-11-19 23:19:23 | ポエム・写真


未来を渇望して
走りつづけた日々
そこでは勝利の旗や
求めただけの抱擁や
与えただけのの報酬が
生活の中に
僕だけに横たわってい
はずだった

僕はもう辿りつけそうもない
現実は秋の光が
幻影のまま未来を揺らす
生きとし生けるものの生命と共に


決心

2024-09-15 20:31:21 | ポエム・写真


一九七〇年代の音楽が聞こえる
眠気と目覚めの入り混じった朝

荷物の重さが負担になり
手放す準備にゆれている
二拍子の律動に授かって
歌詞の意味を
閉じ込めてきたのは
あなたのお陰
せめてその場所は
眺めの良い一角へと
予約と空き順をかぞえながら
廃棄の荷造りを始めている

つよがりの盛夏は
九月の大気にひっそりとし
なぐさめにさえならない
しわがれた皮膚
折れ曲がった骨格
視覚は恣意を遠ざけた
第二のスタートに
荷造りの紐を結び始める
否というさえずりに
グッバイと笑顔をかたむけて


ボンサマ

2024-08-13 22:23:05 | ポエム・写真

盂蘭盆会には
ご先祖さまが泊まりに来るという
本当かしら

ナスや胡瓜の乗り物に
揺られ揺られて来るという
あら、はいからさん

涼しくなった夕餉に
提灯ぶら下げ
お久しぶり、どうぞお上がり

卓袱台を囲んで
煮物とか魚やらつまんで
おはぎは後で

細い煙がなびいて
線香の匂いがぷーん
となりに居るのは誰だろか

あのときの娘は
六歳だったけれど
どこに居るのかしら

人影がおぼろに
障子戸に映る
老いた母はもう眠っている

思い出話は尽きて
灯りは消えて
永遠が泊まっている


母子録(Ⅲ)

2024-06-06 06:29:16 | ポエム・写真


母の散歩はめっきり減った
冬が過ぎて
暖かくなって
お出かけ日和になったのに
ベッドに寝転んでばかり

今日は窓から青空が見えるよ
たまには外に出たら
でも足が痛くなるからと
起き上がる気配はない
歩けなくなっちゃうよ
と忠告しても
しょうがないよと一言

ひととき母の傍らに居ると
いつものヘルパーさんがやって来て
手際よく濡れた下着の交換をして
歩かなきゃねとニッコリ

青空の下には田畑
母が忙しく働いていた場所
今では閑散としている


伝達

2024-05-30 05:48:29 | ポエム・写真

思いを伝える媒体はいろいろある
口から
それは脳から
覚えたての言語
いわゆる声帯から

鉛筆から
真っ白なノート
折り目のついたチラシの余白
汚れた手帳
机の傷痕

キーボードから
ワープロの変換をたよりに
指先が滑っていく
打鍵の心地よさ
みなぎる活字

ふいに漏れ出る 
嘆き 嗚咽 感嘆
なんの脈絡はなく
意識に沈められた言葉
夢散する産毛

人間は伝達のため
言語、道具、ボディランゲージなど
あらゆる媒体を獲得してきた。
だが言語がいちばん煩雑だという節もある。