ついにメールはなかったな
ついに電話はなかったな
ついに届けられなかったな
雪が少なくてよかったな
去年はまいったから
スコップは用意しておいたけど
風邪をひかなくてよかったな
年ごとに寒さがこたえるけど
ストーブとエアコンで電気代が心配だ
みかんとテレビとパソコン三昧
夜中のくしゃみは
うわさ話でもないだろうに
四週きっちり並んだ数字が
生まれかわろうとしている
トイレでつい踏んばった
住みなれた部屋の片隅で
架空をころがした
いちばん欲しいものが
近づくと
気持ちとはうらはらに
拒んでしまうのはなぜ?
さりとて手に入らないと
地団駄をふみ
指をくわえて
うらめしそうに愚痴をこぼす
ドラマの悲劇を
ヒロインのようになぞっている
いったいなにが欲しいのか
自分でも気づかないまま
架空と現実を
ごちゃ混ぜにして
私はますます
身体をよじる
一線級の寒波が南下して
それでも私は日課の運動へと
坂道をのぼる
この辺りで山が白く映るのは
一年でもめったにない
父が旅だった日も
こんな冷たい風の吹く
春まだとおくにけぶる夜だった
山はさまざまな姿形を見せるが
私は立ち止まりもせず
目先のことばかりにこだわっている
季節の移ろいに目をそむけ
蒼白いディスプレイで
自我と称賛を追いかけている
やがて春が来たとき
私は胸を開けて迎えられるだろうか
あまりに無垢な
その真白き姿に
とまどうばかりか
逃げ去ってしまうかも知れない
素直になれないいじましさをかかえ
もうすぐ父の十三回忌が訪れる
(2015.2.19撮影)
眠れない夜に
私は暗闇にわたしを映す
曲がった背骨が
中空で踊っている
ときが流れるのは
どこかへ向かっているのか
運ばれていくのか
どちらなのだろう
荒涼とした地図を
指先でなぞり
立ちつくした
たくさんの荷物をかかえて
背骨はますます
螺旋をえがく
トルソ(塊)をつくる
ひずんだ骨格は
堂々とした意志で
肉付けをしよう
おそれず ひるまず
未知をわたるために
感情は置き去られた
言葉のはしばしを追いかけて
いつわりの場所と時間を
かかえてしまった
しわがれた着衣や半焼けのトースト
つぶれた卵黄や体液のシミ
それらをカーテンで被って
季節の欠片など謳っている
水面の鏡は
いく体もの人形を沈めた
正直に話そう
私はここにいない
憧れが泳いでいる
斜光にゆれる水晶体