その風景は近くだった
あの曲がり角に入ったのは
ほんの気まぐれだった
気がつかなかったのではない
勇気がなかったのではない
その両方だ
近くにあって遠いところ
遠くに見えて近いところ
そんな場所をあちらこちらに
抱えているようだ
草原にこぼれていたミルクと
密林から届いたバナナ
二つをくっつけてミルクバナナ
それをお店に持っていったら
バナナミルク
なつかしい響きだ
白衣のお姉さんがよく
おやつに出してくれた
大人になっても
つい欲しくなってしまう
ミルクとバナナ
バナナとミルク
どっちが先か
バナナミルクは知らんぷり
地軸の傾きに乗っかりながら
長い夜の入口に立つ
かじかんだ手に
数冊の本をかかえ
電熱線ストーブの前で
ひっそりと過ごしている
温まったココアは直に冷める
足先に気を配りながら
とおく果てない夢をみる
最北端に近いロングイェールビーンでは
今夜オーロラが見えるという
闇に光るのは人々の眼と
天空の神々
暗闇と宇宙の輝きが交わるときだ
だれかとだれかが
手を繋ぐだろう
一冊の本を読みかけて
僕はながい夢の途中で引き返す
真っ直ぐにならなくていい
傾いたまま手を合わせる
スタンドの灯りは
頷くように瞬いている
コルバン先生は
椅子をくるりと回転させて
じっと見据えた
君のように眠りたいときに眠り
描きたいときに描くのは
自由でもなく意思でもないのだよ
眠りたくないときにも眠り
描きたくないときにも描く
それが意思であり
継続であり
情熱でもあるのだよ
なるほどね
そうして人は意思に縛られ
自由を失っていくのだね
無意識のうちにね
君は神になるつもりかね
(写真:鬼頭健吾Multiple Star展より。ハラミュージアムアーク2017.11)