写詩之日々

写真と詩を載せています。

S先生

2015-03-28 00:21:33 | ポエム・写真


S先生は聴診器をあて

血圧 脈拍測定

あごの辺りをさわり

ズボンの裾をめくって脛をさわる

カルテの文字は

慣れた手つきの筆跡

デスクのわきにパソコンはあるが

いまだに看護助手に操作させる


近ごろ血圧が高めだが

様子見ようとか

名医なのかヤブ医者なのか

判断がつきかねるが

十年前の精神パニックの入院から

大丈夫 大丈夫といい

服用は自分で調節してと

その押しつけのなさにすこし安心もして


いつか一枚の絵を褒めてくれて

そんな些細なことが嬉しかったけれど

今月いっぱいで退職するS先生

まだ歳には見えないけれど

いままでお世話になりました

さようなら


散策

2015-03-27 23:30:27 | ポエム・写真


道路わきに花がひらいた

風のいきおいで

ひらひらと花びらがゆれ

彩りが透いて

陽ざしを楽しんでいるような

かろやかさだ


別れも不安も

一枚の表皮がめくれるように

春風にさらわれていく

もうすこし街角を歩いてみよう

春というだけで

どこまでも行けそうになる


理由

2015-03-25 14:19:10 | ポエム・写真


ここにいる

理由はなんだろう?

あなたが目の前にいてくれたら

それははっきり答えられる

でも一人のいまは

黙ったまま


ここが生まれた場所だから

母父がいるから

表札がかけてあるから

生きているから

そんな当たりまえの理由で

わたしはここに座る


わたしの存在が

足下で空回りをしている

わたしを怖れ

わたしを探し

だれにも問われず

虚空を見つめている


月夜

2015-03-11 18:39:48 | ポエム・写真


帰りぎわに目に入った

月のかがやき

円形はなにかをすくっている

こんなとき深海では

サンゴが産卵をはじめるらしい

隣人は脳が反乱を起こすのか

ときおり獣に変身する


夢のなかでは

冥王星や銀河系が飛来するが

月は出ているときしか気づかない

ぽっかり地平から浮き上がり

のんきな佇まいは

宇宙よりも絵本が似合う


ありきたりにも

月並みな会話で

ならんでぶらり

歩いてみようか


花屋にて

2015-03-06 04:22:00 | ポエム・写真



今月いっぱいで引っ越します

と入口の貼り紙

あいさつくらいで

会話なんてなかった

もしかしたら

気づかれていたかもしれない


この界隈もたぶんにもれず

郊外店の波で

人足は減っていた

シャッターの閉じる音

いつかはと思っていたが…



栗色の髪が光る

どこの土地でもきみは明るく

くったくのない笑顔で

未来をスキップしていくのだろう



こんど通ったら花を買おう

もちろん部屋に飾るための

春だからなんて理由もいいかな

メッセージカードは不要と

いつもどおりにきみを見届けて