男と女は不機嫌な関係
イエスとノーを交互にささやく
束縛されるのはいや
ぼくもあなたに束縛されている
生まれも性格もちがうのに
こうして逢っているのは
あなたの髪と手脚が
ぼくをくすぐるから
容姿や才知はご愛嬌
背骨のカーブをみせてくれ
面と面 形と形 醜さと醜さ
融解と融解 与えられた命
似たもの同士の生き物(物体)
どうやら気が合うらしい
さあ異界の道へと洒落こもうか
(2015.5.21 横野健一展より。高崎市美術館内、旧井上房一郎邸にて撮影)
夕暮れになると
紳士はベンチにもたれかかる
夜までのみじかい時間を
いとおしむように
過去を綴っている
あるときは誇張し
あるときは消去し
ひとつの物語を編んでいる
自慢そうにパイプを吹かし
これは傑作だと膝をたたいた
しかし結末のピリオドまでは打たれていない
ここであっと言わせるような
どんでん返しをおこそうって魂胆らしい
女房もせがれも同僚も
口をポッカリ空けたまま
そんな反応をまぶたに浮かべながら
とばりの降りた家に
一人もどっていく
子供たちは鬼ごっこをつづけている
孤独が寄りあつまって
ヒソヒソ話をしている
聞き耳をたてると
ときおりこらえるように
笑い声がとどいてくる
そっとのぞき見ると
抱きあってなぐさめ合っている
ふだん孤独を吹聴してるわりに
みょうな光景で
彼らが孤独だとはとても思えない
しまいには踊りだし
「独りで夜に飲む酒は~♪」
などと合唱している
女性を口説きはじめる者もいる
お前もうたえうたえと絡んでくる
いったい彼らは
楽天家か破綻者ではないだろうか
孤独を隠れみのにしたサギ師のようなものだ
そうか!彼らはキツネだ
たしか蕎麦屋だったはずだ
柔和なマスターと
かいがいしい奥さん
それにまだ小さな娘さん
いつも席は空いていて
いつもテレビがついていて
灯りがテーブルの上に
ざらついていた
蕎麦の味はいちばんだった
あれからずいぶん経つが
どこへ越したのか
ガラスが割られ
いつしかペンキが一面に塗られた
人影のない空き家にも
いっとき団らんがあったはずだ
僕はハンター
夜中のフローリングに目を光らせて
うごめく物体に
一目散にスプレー照射
しくじってもハエ叩きで追走し
弱っているところへ
トドメの一撃
ゴキブリ ゲジゲジ
ムカデ 蜘蛛
その他もろもろ
発音するのもゾッとする
手加減も同情もお構いなしさ
出会ったのが運の尽き
いよいよ活動期だからって
調子にのるなよ
君らの醜怪にどうしても馴染めないだけさ
差別なんかじゃないんだゾ
視野角度を拡げて
ビクビク ブルブル
眠らずに待っているんだゾ