写詩之日々

写真と詩を載せています。

初春の約束

2023-03-30 03:56:05 | ポエム・写真

今年は九四歳の母と
初めて
花見に行く約束をした

車窓から桜を眺める
七分咲きだと運転手はいう
桜を忘れるくらい
気がかりが多かった
平和が脅かされても
自然に影を落とす人間の暴利にも
桜は泰然としている

だが僕は
その桜をあまり好きになれない
憂うつになる
浮世離れした絢爛と
あっけなく散るその潔さ
羨望なのか嫉妬なのか
あるいはまったく別の
深層の感情かもしれないが
それを表す言葉が見つからない

母の骨折で
花見の約束は
とりあえず延期になった
病室の母はきっと
忘れているだろうけど
中止ではなく
延期だからね
来年に延期だから・・・


未完成のプラモデル

2023-03-24 03:12:28 | ポエム・写真


子供の頃
プラモデルを作るのが好きだった
鉄腕アトムや鉄人28号
ジェット機やオートバイなど
だんだん難しいものをねだった
けれどいつも途中で投げ出して
未完成のままで
つぎの難しいものをねだった

ホコリを被った
プラモデルを
久しぶりに手に取り
失態と苦笑が入り混じる
能力以上の高望みは
高齢になった今でも
ちっとも変わらないな
でもあのときは
なんの野心も虚栄も
無かったような気がする
なにかを形にする
ときめきだけが無邪気にあった

ガラスケースに再び戻した
部品の欠けた
プラモデルは
幼な子のまま
まだ何かをねだっている


つじつま

2023-03-20 05:16:42 | ポエム・写真

遠くに見える場所が
意外に近かったり
近くに見える場所が
意外に遠かったりする
ワシントンの庭、庭、庭

好きだった人の言説が
性に合わず嫌いになった
その人を誰かが好きになり
またその人を僕が好きになった
メビウスの揺りかごで

今日も太陽が昇る
僕が今日を生きるのか
今日の一部が僕なのか
かたむいた地軸で
ティーカップをかき混ぜた

鏡に映る目鼻口は
いつも同じ位置だけど
まったく違うすがたを
他者は見ている
眠らずにユメを見ている

だから山を海にしたり
海を空にしたり
星くずを貝殻にしたり
現実ではないけれど
非現実でもない

宇宙は広くて小さい
天の川の
無数のシナプスが
僕の内部と交信している
人類の閃きとなる


母子録(Ⅰ)

2023-03-10 02:50:53 | ポエム・写真

僕が転んだとき
母ちゃんがいつも助けてくれた
でも母ちゃんが転んだとき
僕には腕力が無くて
助けられなかった

誰かを呼ぼうと思ったら
母ちゃんは呼ぶなと言ったから
僕はそのまま見ていた
母ちゃんは起きあがろうとして
踏ん張ってはすべり
お尻も丸出しで
何度もすべり
かわいそうというより
なんだか哀しくなってきたので
僕は助けを呼んだ

それから母ちゃんは
救急車に乗っかった
力の弱い僕は
気の強い母ちゃんと
今度会ったとき
なにを話せば良いのだろう


ふたつの世界

2023-03-09 04:17:07 | ポエム・写真

耀いている ふたつ
みつけた
仲良くふたつ
みつけた
星なのか
鉄塔の灯火なのか
天上の暗闇にしっぽりと

一人の男が
ふたつをみつけた
珍しく立ち止まった
たくさんでもなく
ひとつでもなく
ふたつの関係を考えた
離ればなれにはもうならない
もう手を離さない