写詩之日々

写真と詩を載せています。

冷たい女

2022-04-27 04:44:50 | ポエム・写真

私が料理を注文しても
あなたは何も頼まなかった
向かい合って
私の食事を見ているだけだった
差し出したパンも
ひとくちの果物も手を付けなかった
コップの水で
唇を濡らした
タイトな装い
甘やかな香り
どんな人に出会うときでも
身だしなみは手抜かない
それだけは男女の作法に見えた
私は黙々と食べた
ときどき眼をそらし
まばたきや
指先で何かをなぞった
理由は訊ねなかったが
のちの人づてによると
異形の木偶に興味があって
近づいてきたらしい
関係のないことだった
だんだん吐きそうになった
喉元まで氷塊がこみ上げた
口を塞いだけれど
別れて二十年経ってからも
未だつっかえている  


洗剤の詩

2022-04-25 04:32:49 | ポエム・写真


台所に花が咲いた
オレンジの香りがする
チャーミングなお姉さんの
お出ましかと覗いてみたら
床一面に洗剤が流れている
だれが連れてきたのだろう
どこに使うのだろう
品不足のときにでも
転売するつもりか
コップや服に洗剤が
飛び散った
ルシファー・アレテパギサース!
千載一遇だなんて言葉もあるけど
これも何かの縁か
心の汚れを落とします
それなら歓迎さ
キュッキュのキュ
なにもかも洗い流されて


無期限付人生

2022-04-11 01:11:30 | ポエム・写真

賞味期限切れのお茶を飲んだ
半年もまえのやつだ
僕も賞味期限が切れているようなものだから
ちょうどいいや
なんて自嘲気味にフタを空ける
春のぽかぽか陽気に
渋みが身体に沁みてゆく
美味い
色もくすんでいたので
少し心配になったけど
僕はぜんぜん元気だ
冷蔵庫にはまだこんなのばっかりある

そもそも僕に賞味期限なんて
あったのかい?
読みたい本はたくさんあるし
知りたいこともいっぱいある
恋だってこれからだ
還暦過ぎたって
僕には期限切れなんてないんだぞ


何ものでもなく

2022-04-10 03:45:39 | ポエム・写真

桜の花のひらくとき
一年に一度見上げる
ユメとか希望だとか
まとわりつくものが多くて
悩んでばかり
少しだけ忘れよう
この花びらの揺らめきに
身を任せよう
さわさわ ひらひら

あのとき私は
あなたが嫌いだった
やわらかな匂いと優しさを
惜しげもなく広げて
あんまり大らか過ぎて
でも今は愛おしい
花びらが頬をなでる
溶けあっていく
ほんの少しの時間だけ
私は何ものでもなくなる


思い出テラス

2022-04-06 03:09:35 | ポエム・写真

記憶の庭で思い出をくゆらす
あんな こと もあった
こん なことも あった
記憶をパッチワークして
新しいシナリオを浮かべる
他人の中の
自分の姿はどんなだろう
ふりかえれば
不幸だったことは
ひとつもなかった
美しい風景も
知り得なかった人たちも
記憶の中でごちゃ混ぜになる