あんまり突然に訪ねてきたので
ドギマギしてしまい
コーヒーの入れ方もぎこちなくて
あなたは迷惑だったかしらというように
所在なさげに窓を見つめていたが
でもそんな仕草でしか
間をとり繕うしかなかったのだろう
なにしろあなたとは初対面
話題はうかばず
ただ
こんな出会いもあるものだなあと
いっしょに窓を見つめていたら
そのときすでにあなたは背を見せて
小さく遠ざかっていった
母がデイサービスとやらに通いはじめた
ぼくは身体不自由で介護はできず
思案したあげく
足の運動でもしたらと奨めてみたら
介護認定一とかいう判をもらい
あっさり行きはじめた
といってもまだまだ元気
そこで週二日ぼくは留守番になったが
帰宅した母はにこやかだ
聞くと温泉浴場で和気あいあい
思い出のハミングがこだまし
食卓では金魚やエイ
イルカまで泳いでいるという
タクシーの待合所で
ひとときの休憩
いよいよ寒くなってきた
たったいま
地下街でどら焼きを買ったばかり
街はクリスマスの装い
デパートは色とりどりの飾り付け
ひょっとしたら今年は
サンタが現れるかもしれない
と中年の淡いおとぎ話
花は見ている
のをわたしは見ている
冬の陽だまりは
安らぎのひととき
憧れのスポットライト
幕が開くと喝采の拍手で迎えられる
と夢うつつ
だが書棚や液晶テレビの画面にも
傾いた陽がだんだんと
おかまいなく照りつけるので
このままでは具合がどうもと心配になり
カーテンで遮へいする
まだ漏れる陽がうらめしく
日暮れはすぐに訪れる
あの燃え立つ紅葉の
時期もすっかり過ぎたころに
近くの山寺参りに行った
境内はすでに人はまばらで
遅かったかと思ったが
けれど
こんな枯れ枝が茫々として
北風の吹きすさぶ光景も
またいいものだ
冬の覚悟を決めているような
けっして美しいとは言えないのだが
私の心の何処かにも抱え込んでいるようで…