玄関のポストを
赤色から白色に変えたとたんに
すっかり手紙が来なくなった
どうやらやぎさんがくわえて
こっそり盗んでいたらしい
”ぜんぶ食べてしまったので
思い出して書きなおしました”
やぎさんから戻ってきた手紙はハートの形
驚きのあまりこんどは
わたしがぜんぶ食べてしまった
風の吹くまま
空いっぱいにのびて
しなやかにゆれている
秋の一日は移り気
かげったり縮んだり
その変幻を憂うことなく
右に左にたわむれながら
いまを愛しむように
ゆれている
ある夜ぐうぜんに目撃してしまった
ナイフのような尖った影が
悲鳴とともにふり下ろされるのを!
あれはヒッチコック映画の場面だったか…
半年前に建てられた「サービス付き高齢者向け住宅」
”ライフ”と名付けられた三階建ては
夜ごとにやさしい明かりを灯す
人影は見えずひっそりとして
奇妙な物語がはじまる予感
深まるばかりの秋の夜に
やわらかな陽の輪郭に囲まれて
欲望も野心も嫉妬も
塗り絵となってまどろんでいる
行き先はわからない
ただもう秋だから
少しずつ急かされている気がする
わたしが動かなければ
お前はゆったりとして長閑だ
母が一週間の旅行に出かけたと
Y君に電話をしたら次の日に
弁当を買ってきてくれた
彼は介護施設の母親の
見舞いに通う日々らしい
わるいねえと言うと
ぼくのデジカメを手にとって
庭で切ったシャッター一葉
また来るからと
金も受けとらずに帰っていった