なにかが落ちる
どこからか声がする
だれかが近づく気配
…人影
視界の端っこが震える
いく筋もの閃光は
誘拐犯のようにすばしこい
見えなければ錯覚
一瞬なら奇跡
隣人は気のせいだと
揚げものをする
スーパーマーケットの駐車場で
ママ友らしき二人が
談笑している
ぐうぜんの再会らしい
手振りは口元を
かしましく往き来する
いつしか言葉は
泉のように
くったくなく溢れて
買い物袋も
幼子の手も
脇役に押しやられた
積もりつもった日常も
このときばかりは形無しだ
春風の吹く
大気は霞んでいて
網膜までも翳っている
まどろみの中
くっきりとした
たしかさが欲しい
艶やかな花びらよ
潤沢に心を浸せ
春という名で目覚める
喪失した生き物よ
春雲よ
春色よ