食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

肥沃な土壌とは何か?-四大文明の食の革命

2020-01-08 08:09:42 | 第二章 古代文明の食の革命
肥沃な土壌とは何か?
植物が生育するためには、光・二酸化炭素・水のほかに、14種類もの栄養素を土から取り込む必要があることが分かっている。中でも、「窒素」「リン酸」「カリウム」は植物の生育のために大量に必要なことから「三要素」と呼ばれる。このため、現代の複合肥料の多くにこの三要素が含まれている。このように、土壌は水に加えて、さまざまな栄養素を根に供給する役割を果たしている。そして肥沃な土壌とは、植物に十分な水と栄養素を供給できる土壌のことなのだ。

土壌は、岩石が風化することでできた砂や粘土などの成分と、植物や動物の遺体が部分的に分解された「腐植(ふしょく)」が混ざることで形成される。枯れてしまった植物や動物の死体などの有機物は微生物により分解されるが、一部は分解途中で残っている。この分解途中のものが「腐植」だ。腐植は微生物による分解が進むと最後には消えてしまう。

粘土と腐植には栄養素を保持するという重要な役割がある。粘土や腐植に保持されている栄養素は雨水にさらされても溶け出さず、植物の根が出す酸によって初めて遊離して根に吸収される。特に腐植の栄養素保持能力は高く、また、腐植が分解することで栄養素が作られるので、腐植の多い土壌ほど肥沃になる。ちなみに、腐植の多い土は黒っぽい色をしている。

さらに、腐植の多い土壌では土壌の粒子がお互いにくっついて、「団粒」と呼ばれるかたまりができる。団粒構造ができると、団粒の外部のすき間が排水性や通気性を高めるとともに、団粒の内部の微細なすき間が水を蓄えることで、排水性と通気性がありながら保水性もあるという、作物を育てるのに適した状態になる。

ここまでわかったところで、森と草原の土壌について比べてみよう。

森にはたくさんの樹木が生えていて葉や枝を落とすので腐植の元になるものは多い。しかし一方で、これらの木々がたくさんの栄養素を常に吸い上げているし、栄養素は木の幹や枝、葉などに長期間にわたって蓄えられるので、土壌中の栄養素は枯渇しがちになる。さらに、植物が良く育つと植物の根によって土壌が活発化して腐植の分解が進む。

一方、草は樹木に比べてはるかに小さいため、吸い上げる栄養素の量は少ない。しかも草はすぐに枯れ、そのすべてが土に戻って腐植になる。また、土壌の活性が低いので腐植の分解もゆっくりだ。この結果、森よりも草原の土壌は肥沃になるのだ。

以上のように四大文明の大河流域では、上流から流されてきた腐植の多い土壌が堆積し、そこに雑草が育つことで肥沃な土壌が形成された。これが、四大文明成立の重要な要因になったのだ。