古代ローマ人の食事(2)タベルナとポピーナ
古代ローマでは一戸建ての邸宅「ドムス」に住めるのは一握りの上流階級の人々だけで、中流階級以下の庶民は「インスラ」と呼ばれる6~7階にもなる集合住宅で生活していた。インスラのそれぞれの部屋には台所は無く水道も来ていなかったので、家では料理はほとんどできなかった。そこで食事は、買ったりもらったりした簡単なもので済ませるか、家の外に食べに行くかのどちらかだった。このような人々のために街中にはたくさんの飲食店が食事を提供していた。
インスラの1階部分は店舗になっていて、ここに古代ローマの小売店の「タベルナ」が入っていることが多かった。多くのタベルナが調理済み食品やワイン、パンなどを売っていたが、オリーブオイル、魚介類、果物などの販売を行うものもあった。また、穀物などの配給もタベルナで行われていた。宿泊施設を持ったタベルナも存在していて、他都市からのまともな旅行者は後述するポピーナではなく、タベルナに泊ったのだろう。現在、ローマの観光スポットの一つになっているトラヤヌスの市場(写真)は西暦100年頃に作られた世界で初めてのショッピングモールで、たくさんのタベルナが軒を連ねていたと考えられている。
ローマのトラヤヌスの市場
料理を売っていたタベルナには石とセメントで作られたL字型のテーブルがあり、そこに料理を入れておくカメが埋め込まれていた。カメの周りはレンガで覆われているので保温効果があり、食べ物を温かいまま、あるいは冷たいまま保っておくことができた。客は、カメの中身を見て、食べるものを決めたのだろう。注文を受けるとカメからしゃもじなどで器に移し、客に提供した。また、小さいオーブンもあり、焼き立ての肉や煮込み料理も出されていたようだ。店の中にテーブルとイスが置かれている場合にはそこで食べることができたし、無い場合は立ち食いしたり、家に持って帰って食べたりした。
タベルナでよく食べられたのが「プルス」と呼ばれるムギがゆだ。これは庶民や兵士にはおなじみの料理で、オオムギやエンムギをおかゆにして、オリーブオイルやガルム、塩などで味付けをしたものだ。現代の牛丼のように、サクッと食べられて腹持ちが良い一品だったのだろう。プルスにはインゲンマメやエンドウマメが添えられることが多かった。これ以外には、煮た豚肉や串焼きなどに人気があったようだ。また、パンやゆで卵、オムレツ、チーズやサラダなど、現代の軽食とあまり変わらないものが提供されていた。
古代ローマにはタベルナ以外に「ポピーナ」と呼ばれる泊り部屋付きのワインバーがあった。ここでは様々なワインを飲みながらパンやシチューなどの簡単な食事ができた。利用者は主に奴隷や外国人など下層階級層であり、売春や賭博が日常的に行われていたと言われていてトラブルの巣窟になっていた。このように飲酒・売春・賭博の三つが結びついたのは古代ローマが最初とされている。
ちなみに、この頃の賭博にはサイコロ(ダイス)が使用されていた。6つの目がランダムに出るため賭博性がとても高くなり楽しくなるのだ。サイコロを使った賭博に上は皇帝から下は奴隷までが熱中し、度々禁止令が出された。とは言っても国のトップが熱中するくらいなのであまり効果はなく、多くの人が隠れてやっていただろうし、祭りでは奴隷も含めて賭博が許されたようだ。