MARUMUSHI

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『この世界の片隅に』。

2016-11-12 15:51:33 | 映画日記
#この世界の片隅に



『この世界の片隅に』を観てきた。

上映終了後、劇場は拍手に包まれた。
何でもないシーンで涙が出る。
ご飯を食べる。絵を描く。水を汲む。
そこに、生きているという実感が確かにある。
重くはない。軽くもない。でも確かな命の重み。


昭和一桁年代から終戦までの時代を描く。こうの史代さんの作品は『夕凪の街 桜の国』で初めて観たけれど、彼女の作品は悲惨な戦争を描くものじゃない。戦争という状況を描くものだ。そして、そこに残った小さな幸せの残滓を描くものだ。

戦争。
正義と正義のぶつけ合い。そして、正しいと正しくないの線引きをする行為。
大抵の場合、戦時下の人間は“正しくない”状態にいる。でも、それをそうと気づけない。そんな中で、鈍いすずは普通のボンヤリとした“正しい”人でい続ける。
右腕と姪っ子を失うまでは。
世界が狂っている。たくさんの大事なものを驚くほどの勢いで捨てていっている。うまく使えない左手で描く絵は、その様子を見事に表す。
私が死ねばよかった?
そして、姪っ子の右腕が無くなればよかった?

何がよかったの?

世界は全て悪いジョークだ、とバットマンのジョーカーがいうように、政治という世界規模の悪ふざけの中、僕らは今日も生きている。
そんな世界の片隅にすずがいて、周作がいて、りんがいて、みんないる。
どんなに世界が悪いジョークで包まれようと、自分を自分と忘れず、思い出させてもらえれば、きっとそこは悪くない。

すずの生きた世界は今の時代に繋がっている。
世界は大きく変わっているけれど、たぶん人間そのものは、昔からそんなに変わらない。
だからこそ、僕は、小さな幸せの残滓を見つけられるのだ。
この世界の片隅に。