隊長が読んだ「本と雑誌」を紹介するシリーズの第9回は、『日本の「仕事の鬼」と中国の<酒鬼>』です。
この本は、外務省で長年中国外交に携わり、北京・広州・大連・重慶など各地での勤務経験も豊かな外交官 冨田昌宏氏が、日本と中国をつなぐ漢字文化の奥深い世界について書いています。発行は、2014年5月。
『日本の「仕事の鬼」と中国の<酒鬼>』を購入したのは、中国に駐在していた時や、旅行した時、それに中国語を勉強していた時に、同じ漢字なのに中国と日本で意味が異なるケースをしばしば体験しています。
また、ある漢字が何故、その様な意味を持つようになったかを知りたいと常々思っていました。そんな時に、「日中の漢字の文化的な背景の共通点と相違点を知ることが重要」と謳う、この本と出会いました。
構成は;
第1章 日本と中国の漢字表記とその文化的背景
(1)中国と日本の国名について、(2)二十四節気、(3)十干十二支、(4)仏教文化と大仏・観音像、(5)季節の行事と伝統文化
第2章 中国文化の真髄
(1)酒の文化、(2)中華民族を象徴する龍と鳳凰、(3)八仙人と七福神、(4)三十年河東、三十年河西、(5)親族関係の呼称、(6)日本と中国の姓と氏、(7)中国文化の真髄たる古典文学と現代口語との落差
第3章 民族、国情、語法による表現の特色
(1)「冨」の字と孔子の家、(2)日本と中国で意義や用法に大きな違いのあることば、 (3)日本の「仕事の鬼」と中国の〈酒鬼〉、(4)中国で忌み嫌われる「亀」と賞賛される「牛」、(5)〈花花公子〉は貴公子か、(6)30歳の〈老婆〉と〈老師〉、(7)〈愛人〉と〈情婦〉、(8)中国語の表現に対する日本人の感覚、(9)〈賓至如帰〉のもてなしの心、(10)花と魚の名称、(11)円と元、(12)固有名詞の表記と発音、(13)多額の財に対する世間の目にどう対処するか、(14)新しい概念を表現するために創られた日本と中国の外来語
第4章 社会主義中国と高度経済成長下の日本における特徴あることば
(1)社会主義中国特有の事物、(2)国花と国鳥の制定、(3)外国事情とそれに関する中国語表現との整合性、(4)中国の地方行政制度の変遷、(5)〈南水北調〉と〈北水南調〉はどう違う、(6)〈家具、家居、家私〉、(7)主客転倒
第5章 中国の急速な経済発展に伴う新しい現象と表現(1)政治、経済
(1)改革開放によって実感された中国の変革、(2)自白を強要したのは「警察」か「検察」か、(3)鉄道建設の汚職発覚で逃げ切れなかった〈裸官〉、(4)対価を払って記事を書かせる「有償ニュース」、(5)違法な盗作製品が横行する社会を美化する〈山寨文化〉、(6)一億総中流社会の日本と格差社会の中国、(7)〈零八憲章〉と政治改革を求める運動、(8)歴史と共に価値観が激変した〈貴族〉、 (9)対外関係にみる漢字文化、(10)楽天の「中国ネットモール」と重慶商社グループの話題
第6章 中国の急速な経済発展に伴う新しい現象と表現(2)文化
(1)〈小姐〉(お嬢さん)、(2)かつて中国の歌番組で一世を風靡した〈超級女声〉(スーパー女性歌手)、(3)中国語になった日本語「人気ランキング」、「量販カラオケ」、(4)新たに提起された中国の文字表記の問題、(5)安室奈美恵ブランドのファッション衣料、(6)人の容姿を表現することば、(7)生活の中での文字表記に対する感覚と認識の違い、(8)〈菜鳥〉とはどんな鳥、(9)結婚と離婚をめぐる厳しい環境、(10)中国復帰前の香港住民の新語
第7章 中国と日本の新語にみる新しい時代
(1)中国で1年に「バレンタインデー」が3回あった年、(2)「今年の漢字」の発表、(3)ゴールデンウイークと〈黄金週〉、(4)中国で愛好される日本の歌謡、(5)日本のアニメに関連する話題、(6)中国映画〈非誠勿擾〉の影響、(7)日本式に修正された漢字熟語、(8)ネット依存症などの困った生活習慣、(9)リニアモーターカーとモノレール、(10)タクシー運転手〈的哥、的姐〉、(11)自然災害に関する表現
書名にもなっている『日本の「仕事の鬼」と中国の<酒鬼>』は、日本では「オニ」ということばは、古くは、里の人と同化せず、山で暮らす異種族の人々などを指していました。
これに中国から伝わった、死者の幽霊という概念が加わり、無慈悲な人間の意味でも使われるようになりました。現代では「仕事の鬼」などと、精魂を傾ける人の意味でも使われています。
中国では、「鬼guǐ」は、元々は人の死後の亡霊を意味していました。しかし、現代の中国語の「鬼」の意味は多様です。
「酒鬼jiǔ guǐ」(大酒飲み)のように、悪い生活習慣にハマった人のことを軽蔑した呼称として使われています。
日本では、「仕事の鬼」などと肯定的に使われているのに、中国では蔑称として使われているのが、面白いと思いました。
他に、面白いと思ったのは、第1章 (3)十干十二支。日本の十二支の「猪(イノシシ)」が、中国では「豚」になっている理由を初めて知りました。また、十二支の動物の順番の訳も面白かった。
同じ、第1章の(5)季節の行事と伝統文化 で、日本の「端午の節句」と中国の「端午節」の説明も、改めて知ると、意義深い行事だということが判りました。
第3章 (9)〈賓至如帰〉のもてなしの心 では、NHK朝ドラ「どんど晴れ」の旅館「加賀美屋」の玄関に掲げられていた、家訓の額が取り上げられています。
このドラマのモデルになった、岩手県「つなぎ温泉」の『愛真館』に宿泊した http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/235c3d4b0ed9a103f330f9d62afafa9d ことがあるので、興味深かったです。
尚、『日本の「仕事の鬼」と中国の<酒鬼>』の発行は、日中関係の出版を手がけている(株)日本僑報(きょうほう)社 、定価は1,800円(+税)。
===「本と雑誌」バックナンバー ===
http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/c/dc30502bb229b843454e38b8994f9be0
1冊 2012/2/12 『飯田哲也著 1億3000万人の自然エネルギー』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/e8836d81a3cd82d1bfc3892c5f9b36b7
2冊 2012/7/26 『きれいが目覚める ベリーダンス』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/7d54beca3506d54cf15d1145cf2f19c0
3冊 2012/9/12 『“正しい発音”で歌える! 韓流バラード』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/588b91c5c528b5587355dfe30cf0851c
4冊 2013/12/30『スイカに塩をかけるのって変ですか』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/8eb5f1282c10bfead720ac9f30f0e038
5冊 2014/2/23 『地球の歩き方 ブラジル』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/ca73b0782e432177cbe657f02ad4104c
6冊 2014/3/6 『玉露園のこんぶ茶アイデアレシピ』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/9159c5e76b3dd3cb64da7019499ee3d6
7冊 2014/11/15『日本のビール 面白ヒストリー』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/b9ef4596467913d15de6e62afa954110
8冊 2015/3/5 『オレとО・N』 http://blog.goo.ne.jp/taichou-san2014/e/1e7ca0c0fdffac35a646534430a0abc4