えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

第5章 放射線治療 3.

2007年06月27日 | 乳がん闘病記
3.
 2005年4月12日。退院後3日目。傷口の処置のため、病院に出向く。
 今まで呼ばれていた診察室や超音波室ではなく、初めて処置室に呼ばれた。カーテンで仕切られただけの小さな空間に入ると、簡易ベッドがあり、患部を見せられるようにして待つよう、看護師に言われる。ほどなくY先生の相棒であるF先生が入ってきた。

 患部を見た先生は、開口一番「おぉ、きれいですねぇ。完璧!」と満足気に言った。入院中X先生の回診のときに居合わせなかったので、術後の患部を見るのはこれが初めてだったのだ。「何せ気合い入りましたからね~。これくらいきれいにできれば、お金取ってもいいですね」とまで言う。
 それから、「回復が早いなぁ」と感慨を込めて言った。癒着や感染症を起こすこともなく、順調に回復しているとのこと。よかった。そう言えば、Bさんは術後に傷口が癒着したと言っていたな。
 続けて「回復の速さはK畑さんのポテンシャルの高さですよ」と先生は言う。Y先生といいF先生といい、この病院の先生は翻訳が必要な表現をするものである。要は、「患部がきれいに仕上がったのは我々スタッフの力量と努力によるが、回復が速いのは患者であるあなたの気力や体力によるものだ」と言いたいのだろう。F先生流の激励の言葉なのだろうと解釈した。

 先生は看護師に処置のための用具を持ってこさせ、「ちょっとちょっと、ここ見てくれる? ほら、きれいにできたでしょう?」と、まるで自分の作品を自慢するかのように言った。看護師が苦笑してうなずくと、「ほら、クラゲみたいので海にいるでしょう? 何て言ったっけ……あれみたいに縫ったんですよ」と先生は快活に言う。―クラゲェ………? ひょっとして、クリオネのことかしら…― 私はまだ傷口を見てはいなかったが、手術直後Y先生が夫に対して説明した、傷口の縫合の仕方を描いた図を思い出していた。やっぱりクリオネって言いたいのだろうな。
 このやりとりを文字で読んでいると、おそらくF先生の人柄を疑う人がいるかもしれない。でも、その場にいた私には、先生が私をいろいろな方法で元気づけようとしていることがひしひしと伝わってきた。「私たちはあなたのために最善を尽くしましたよ。その結果、こんなにきれいに仕上がりましたよ」と言ってくれているのだと思った。

 先生はまず、乳房の縫合痕と、検査のために別切開したリンパ節の傷口と、脇腹にあるドレイン管の出口を消毒した。次に、何をしているのか私にはさっぱりわからない処置を、時間をかけて一つ一つ丁寧に行った。ブツブツ独り言を言いながら、ある緊張感を持って。その様子から、この先生は照れ屋なのだろうなぁと、私は微笑ましく思った。

 作業を終えると、先生は次のことを説明した。
  ・縫合に使った糸は溶解性なので、抜糸の必要はない。
  ・糸を抑えている小さなテープを交換した。じきに剥がれるかも
   しれないが、それはそれでかまわない。
  ・患部全体を覆っている絆創膏を外してもよいくらいの回復状態だが、
   せっかく順調なので、感染症を防ぐためにあと2日は貼っておきましょう。
  ・3日目からは絆創膏を外して入浴してもOK。

 2週間後にY先生の診療を予約し、その日のノルマは終わった。
 帰りがけに、元のルームメイトのKさんの顔を覗きに病棟に行ってみたが、残念ながら部屋を離れていて会えなかった。2週間後にまた来よう。

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