えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

第1章 ある日突然… 14.

2007年03月31日 | 乳がん闘病記
14.
 中廊下、とでも言えばよいのだろうか、診察室と待合室の間の廊下で、看護師が内線電話を立て続けにかけているのを、私は丸い小さな回転椅子に腰かけてぼぉっと聞いていた。3種類の検査の予約を取ってくれているのだ。ベテランらしい雰囲気の彼女は、ある種の緊張感を体全体ににじませ、カレンダーと書類と私とを代わる代わる見ながらてきぱきと処理している。

 その合間に、それぞれの検査について「検査同意書」を私に読ませ、問診にチェックを入れるように言った。自分を落ち着かせるためにも、そして看護師に落ち着いているところを見せるためにも、私はゆっくり時間をとって問診を読み、チェックした。最後に同意の署名をするとき、手が震えないように力を込めた。―どぉ? 私は動揺してないでしょう? 落ち着いているでしょう?― 看護師と自分に必死に問いかけている自分が妙に哀しかった。

 何をさておいても検査を優先しなければならないような気がしたので、私は言われるがままの日時で予約を取ってもらった。命より大切な用事など、何一つない。CTと RI検査は近々に取れたが、F先生が言ったとおりMRIが混んでいて、4月の19日になると言う。1ヶ月以上も先のことだ。看護師が思案顔でF先生に相談に行くと、先生は超音波室から出てきてこう言った。「キャンセル待ちかけて。クラスIVだから、なるべく早く検査できるようにしてあげて!」

 その一言は、ぼおぉっとしていた頭が覚めるほど、カウンターパンチのように私に効いた。あまりの急展開についていけずに麻痺していた頭が、ようやく現実の重みを感じ始めたのだ。そのときの私はどんな顔をしていたのだろうか? 気づくと、看護師に声をかけられていた。「K畑さん、大丈夫ですか?」

 ハッと我に返り、無理やり笑顔を作りながら「大丈夫です」と言うと、「まだ悪性と決まったわけではありませんからね。元気出してくださいね」と慰めてくれる。看護師の思いやりが身に染みるのと同時に、慰められなくてはならない今の状況が、私を余計にみじめにさせた。思わず涙がこみ上げてきて、必死に瞼で押しとどめた。

 看護師は同意書を確認し、伝票を揃え、検査の日程や要領を私に説明した。血液採取だけはその日にできるので、すませてから帰宅するように言った。

 外科の斜向かいにある検査室で順番を待っていると、看護師が小走りで私を呼びに来た。「K畑さ~ん…K畑さ~ん……よかった、まだいらっしゃって。たった今MRIのキャンセルが出たんです。明日なんですけど来られますか?」 承諾すると、彼女は伝票を書き換えるために回収し、血液採取後に外科に戻るよう指示して、急いで出て行った。

 外科に戻ると、「ラッキーでしたねぇ。MRIはいつも混んでいて、こんなにタイミングよくキャンセルが出ることなんて、なかなかないんですよ」と彼女が明るく言ってくれる。きっと私を励ましているのだろう。私も嬉しかったが、そんなに急がなくてはならない状況なのだろうかと逆に焦る。改めて事の重大さを突きつけられたような気がして、また哀しくなった。

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2 コメント

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やっと読み始めました。 (栗原俊子)
2007-08-23 15:19:12
なかなか最初の章に行けなくて、新しいのは読めるのですが・・・
このコメントはただ入力すれば送られるのでしょうか?
内容についてのコメントが後になってしまってごめんなさい。
お医者さんや看護婦さんが患者のためにと思っての発言が全て悦子さんの立場からすると辛い内容だと思います。読むたびにドキッとしてしまいました。実際に支えてくれる人の思いと、受け手の立場では、精神的に受ける辛さが共有できにくいのですね。実際に自分のために動いてくれている人の発言に傷つくことは、どうしようもないことなのでしょうか・・・人と接点を持つ、人と関わることについて考えさせられます。
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俊子さんへ:ありがとう...... (takuetsu@管理人)
2007-08-23 15:52:37
まぁ、なんてお久しぶりでしょう。どうしてるかな、残暑見舞いでも出そうかな、と思っていたところでした。

最初から読めましたか? 左帯にあるカテゴリー欄の、たとえば「ショートショート」をクリックすると、それだけが日付順(下が古い)に表示されるようになっています。一度に表示される件数は15件なので、それを越える記事があるカテゴリーは、最下段にある「前ページ」ボタンをクリックするとさらに15件前にさかのぼって表示されます。
闘病記はすでに100を越えているので、何度もさかのぼらないと最初が出てこないんですよね。ごめんなさいね。

俊子さんらしい、きめ細やかで思いやりのあるメッセージですね、ほんとにありがとう。
私のお世話になったお医者さん、看護師さんは、みなほんとに良い方ばかりです。多忙な激務の中、患者のためによかれと思って動いてくれていることがわかる、誠意にあふれた人が多いのです。
それだけに、逆に哀しみが増してしまったり、相手の立場に立って余計な気を使ったりしてね。人を思いやるってむずかしいですね。

でも、この後をお読みいただくとわかりますが、私も患者としてどんどん変化していきますよ。自分を守れるのは自分だけ、結局わがままな患者になっていきます。

またお立ち寄りくださいね。
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