24.
とりあえず事態を収拾しなくてはならないと思った私は、「申し訳ありません」と謝った。詫びる必要などないとは思いながらも、反射的にそうしていた。
すると、先生も膠着しかかった雰囲気をとりなすかのように、そして自分にも言い聞かせるかのように応じた。「いいえ、かまいません。患者さんが納得して治療を受けられた方が、こちらとしてもいいですから…」
その言葉にいくらかほっとしていると、Y先生は「とにかく患部を診ましょう」と言った。そう、まだY先生は私を写真でしか診ていなかったのだ。
F先生と同様、視触診を経て超音波で調べる。F先生は腫瘍を探り当てるのに時間がかかったが、Y先生は一発で当てた。画像をプリントアウトする間に、私が「センチネルリンパ節生検はやっていらっしゃいますか?」と試しに訊いてみると、「はい、やってます。よく勉強なさってますね」と、ニヤッとしながら言った。
大きさを訊くと、印刷した写真に定規を当てて「15.2mmというところですね」と言う。F先生は10mmと言っていたから、半月の間に大きくなったということか? それとも、F先生が言っていた例の「大きさはどこを境界とするかによる」ということなのか…。
互いにデスク前の椅子に戻ると、Y先生は用紙を取り出した。「手術・検査・病状等の説明 患者用」と一番上に書かれている。私もエクセルシートとペンを取り出して身構えた。
「ご家族と一緒に話を聞かなくてもよろしいですか?」先生が今更ながらそう断ったので、それ相応の意思決定が必要になる話なのだなと覚悟した。「実は主人が近々海外へ赴任するかもしれませんので、一人で聞きます」と言うと、「手術のときにはどなたか立ち会ってくださる方がいますか?」とやはり手術の話に飛ぶ。「主人がいなければ、妹に立ち会ってもらおうと思います」と答えると、安心したかのようだった。
そのやりとりから、私は本の中のあるくだりを思い出した。告知するときには、家族や親しい友人などサポートしてくれる人がいる方が、患者も助かるし、医師としても心強い、と書かれていたのだ。患者本人はとかく動転して話を正確に聞き取りにくいのもさることながら、医師の側からすれば、患者側に一人でも多くのサポーターがいる方が治療がしやすい、ということだった。
―大丈夫です、私は一人ですけど大丈夫です!― 私はY先生に目で訴えた。
とりあえず事態を収拾しなくてはならないと思った私は、「申し訳ありません」と謝った。詫びる必要などないとは思いながらも、反射的にそうしていた。
すると、先生も膠着しかかった雰囲気をとりなすかのように、そして自分にも言い聞かせるかのように応じた。「いいえ、かまいません。患者さんが納得して治療を受けられた方が、こちらとしてもいいですから…」
その言葉にいくらかほっとしていると、Y先生は「とにかく患部を診ましょう」と言った。そう、まだY先生は私を写真でしか診ていなかったのだ。
F先生と同様、視触診を経て超音波で調べる。F先生は腫瘍を探り当てるのに時間がかかったが、Y先生は一発で当てた。画像をプリントアウトする間に、私が「センチネルリンパ節生検はやっていらっしゃいますか?」と試しに訊いてみると、「はい、やってます。よく勉強なさってますね」と、ニヤッとしながら言った。
大きさを訊くと、印刷した写真に定規を当てて「15.2mmというところですね」と言う。F先生は10mmと言っていたから、半月の間に大きくなったということか? それとも、F先生が言っていた例の「大きさはどこを境界とするかによる」ということなのか…。
互いにデスク前の椅子に戻ると、Y先生は用紙を取り出した。「手術・検査・病状等の説明 患者用」と一番上に書かれている。私もエクセルシートとペンを取り出して身構えた。
「ご家族と一緒に話を聞かなくてもよろしいですか?」先生が今更ながらそう断ったので、それ相応の意思決定が必要になる話なのだなと覚悟した。「実は主人が近々海外へ赴任するかもしれませんので、一人で聞きます」と言うと、「手術のときにはどなたか立ち会ってくださる方がいますか?」とやはり手術の話に飛ぶ。「主人がいなければ、妹に立ち会ってもらおうと思います」と答えると、安心したかのようだった。
そのやりとりから、私は本の中のあるくだりを思い出した。告知するときには、家族や親しい友人などサポートしてくれる人がいる方が、患者も助かるし、医師としても心強い、と書かれていたのだ。患者本人はとかく動転して話を正確に聞き取りにくいのもさることながら、医師の側からすれば、患者側に一人でも多くのサポーターがいる方が治療がしやすい、ということだった。
―大丈夫です、私は一人ですけど大丈夫です!― 私はY先生に目で訴えた。