「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

良知の言葉第13回「天下の事は万変すと雖も、吾のこれに応ずる所以は、喜怒哀楽の四者を出でず。これ学を為むるの要にして、政を為すも亦たその中にあり」

2023-07-29 11:37:51 | 「良知」の言葉
第14回(令和5年7月29日)
「天下の事は万変すと雖も、吾のこれに応ずる所以は、喜怒哀楽の四者を出でず。これ学を為(おさ)むるの要にして、政を為すも亦たその中にあり」  (王陽明全集第二巻『文録』書の1「王純甫に与ふ(一)」)
 
 この言葉は、弟子の王景顔が河北省大名の知事に赴任するに当り教えを請い、それに対して王陽明が「気質を変化する」事の重要さを述べ、次の様に語った言葉の後半部分である。「気質を変化させる」とは「私欲に蔽われた血気に引き摺られた性格を、本来の曇りの無い天地の本性―天から与えられた純粋の本性―に戻す事」を言う。
 
 王陽明は次の様に述べた。
「平常な時には感じないが、利害が生じた時に非常の出来事を経験して屈辱に遭遇すると、普通だったら憤怒するが、ここに至れば(心を修養し、気質を変化させる事が出来ている者は)能く憤怒しないで居る事が出来る。又、心配して恐れ取り乱す者も、ここに至れば何ら恐れる事も無く取り乱す事も無い。それは心に会得する事があるからであり、その事に力を注いで来たからに他ならない。天下の事は様々に変化するとは言っても、自分がそれに応ずる姿は、喜怒哀楽の四者を出る事は無い。それ故、この事(気質を変化させる事)こそが学問を修める事の要所であり、政治を行う事もその中にある。」

 私達の日常生活では、何事かに遭遇すると「喜び」「怒り」「哀しみ」「楽しみ」の感情が湧き起こって来る。これらの「情」はともすると人を破滅に迄引きずり込んでしまう。感情を適切に制御できる様になる事、それは普段の生活の中で自分の心を磨き続ける事、前回に述べた「事上磨錬」、により可能となる。

 最近夕刻になると雷が鳴り響く事が多いが、雷とそれに伴う豪雨も、暫くすれば治まり、晴天が顔を覗かせる。吉田松陰は『講孟餘話』の中で、『孟子』の「怒りを蔵さず、怨みを宿(とど)めず。」(万章上)の言葉に対して「此の二句、尤も善し。君子の心は天の如し。怨怒する所あれば雷霆の怒を発することもあれども、其の事解くるに至りて、又天晴日明なる如く、一毫も心中に残す所なし。是れ君子陽剛の德なり。」と述べている。「陽剛の徳」良い言葉だ。『論語』には、「怒りを遷(うつ)さず」との言葉もある。

 私も若い時は直ぐに怒って厳しく叱咤したり時には殴ったりもしていたので「鬼多久」と後輩達から恐れられていた。その後の体験と修養とを重ね、その鋭角もかなり取れて来た様に思って居る。「骨の無いくらげ」の様になってはいけないが、一本芯の通った寛容と柔軟性を持した人間になりたいと思って居る。


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