第13回(令和5年7月25日)
「起ちて高楼に向ひ暁鐘(ぎょうしょう)を撞(つ)く」 (江西詩「睡起偶成」其一)
王陽明は48歳の時、江西省南昌に拠って叛乱を起した王族の寧王(ねいおう)宸濠(しんごう)を討伐し、わずか二週間で平定する。その手際の見事さは、逆に朝廷の中で嫉妬を生み、更に王陽明の学問の隆盛を妬む旧来の学者達からの総攻撃が始まった。誹謗中傷渦巻く中にあって、王陽明は、陽明哲学の真髄ともいうべき「致良知(ちりょうち)」説を提唱する。
当時、王陽明は不屈の使命観を漢詩の中で高らかに詠みあげている。それが、48歳の頃に詠じた七言絶句「睡起偶成」二首である
睡起偶成 其一
四十餘年睡夢中 四十余年睡夢(すいむ)の中
而今醒眼始朦朧 而今(じこん)醒眼(せいがん)始めて朦朧(もうろう)たり
不知日已過停午 知らず日已(すで)に亭午(ていご)を過ぐるを
起向高樓撞暁鐘 起ちて高楼に向ひ暁鐘(ぎょうしょう)を撞(つ)く
【意味】私はこれ迄の40余年間、(真理も解らずに)眠っていた様なものだった。今、私は漸く真理に目覚めたが、意識はまだ朦朧としていた。私は既に正午を過ぎてしまっている事を知らなかった。だから直ぐに立ち上がって高楼に登って、世の人々を目覚めさせる為の暁の鐘を鳴らし始めたのである。
睡起偶成 其二
起向高樓撞暁鐘 起ちて高樓に向ひ暁鐘を撞(つ)く
尚多昏睡正懜懜 尚ほ多く昏睡(こんすい) 正に懜懜(ぼうぼう)たり
縦令日暮醒猶得 縦令(たとひ)日暮るるも醒猶(な)ほ得ん
不信人間耳盡聾 信ぜず人間の耳尽(ことごと)く聾(ろう)なるを
【意味】起ち上って高楼に登って暁の鐘を撞いた。しかし、世の中の多くの人々は前後も解らずに眠り続け、無知のままである。たとえこのまま日が暮れても目覚める事は無いかも知れない。しかし、私は全ての人間の耳が聞こえなくなっているとは、決して信じない。起ち上がって撞く私の鐘(「致良知」の叫び)の音に耳を傾け、目覚める者が必ず出ると信じている。だから、私は鐘を撞き続けるのである。
この「睡起偶成」の詩は、私達に無限の勇気を与えてくれる。50歳近くになっても王陽明は起ち上がり必死に世の人々の為に暁鐘を鳴らし続けた。真理を悟る時期は人それぞれによって異なるであろう。それ故、何歳になっても学び続け生長し続けるならば真理に通じる何かを得て、私達も「暁の鐘」を撞き始める時が来るのである。
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「起ちて高楼に向ひ暁鐘(ぎょうしょう)を撞(つ)く」 (江西詩「睡起偶成」其一)
王陽明は48歳の時、江西省南昌に拠って叛乱を起した王族の寧王(ねいおう)宸濠(しんごう)を討伐し、わずか二週間で平定する。その手際の見事さは、逆に朝廷の中で嫉妬を生み、更に王陽明の学問の隆盛を妬む旧来の学者達からの総攻撃が始まった。誹謗中傷渦巻く中にあって、王陽明は、陽明哲学の真髄ともいうべき「致良知(ちりょうち)」説を提唱する。
当時、王陽明は不屈の使命観を漢詩の中で高らかに詠みあげている。それが、48歳の頃に詠じた七言絶句「睡起偶成」二首である
睡起偶成 其一
四十餘年睡夢中 四十余年睡夢(すいむ)の中
而今醒眼始朦朧 而今(じこん)醒眼(せいがん)始めて朦朧(もうろう)たり
不知日已過停午 知らず日已(すで)に亭午(ていご)を過ぐるを
起向高樓撞暁鐘 起ちて高楼に向ひ暁鐘(ぎょうしょう)を撞(つ)く
【意味】私はこれ迄の40余年間、(真理も解らずに)眠っていた様なものだった。今、私は漸く真理に目覚めたが、意識はまだ朦朧としていた。私は既に正午を過ぎてしまっている事を知らなかった。だから直ぐに立ち上がって高楼に登って、世の人々を目覚めさせる為の暁の鐘を鳴らし始めたのである。
睡起偶成 其二
起向高樓撞暁鐘 起ちて高樓に向ひ暁鐘を撞(つ)く
尚多昏睡正懜懜 尚ほ多く昏睡(こんすい) 正に懜懜(ぼうぼう)たり
縦令日暮醒猶得 縦令(たとひ)日暮るるも醒猶(な)ほ得ん
不信人間耳盡聾 信ぜず人間の耳尽(ことごと)く聾(ろう)なるを
【意味】起ち上って高楼に登って暁の鐘を撞いた。しかし、世の中の多くの人々は前後も解らずに眠り続け、無知のままである。たとえこのまま日が暮れても目覚める事は無いかも知れない。しかし、私は全ての人間の耳が聞こえなくなっているとは、決して信じない。起ち上がって撞く私の鐘(「致良知」の叫び)の音に耳を傾け、目覚める者が必ず出ると信じている。だから、私は鐘を撞き続けるのである。
この「睡起偶成」の詩は、私達に無限の勇気を与えてくれる。50歳近くになっても王陽明は起ち上がり必死に世の人々の為に暁鐘を鳴らし続けた。真理を悟る時期は人それぞれによって異なるであろう。それ故、何歳になっても学び続け生長し続けるならば真理に通じる何かを得て、私達も「暁の鐘」を撞き始める時が来るのである。
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