ある小さな漁村の診療所に、
キタムラと言う、
若い気まじめな医者が来た。
昼夜を問わず患者に尽くしまくり、
生計の立たない人からは取り立てない、
医者の神様仏様やった。
ある日、
キタムラが、
海が見える崖道通りかかると、
どこかのババはんが、
崖下の海を見下ろし、
「子供---子供---」と慌てふためいていた。
キタムラが慌てて駆けつけ、
崖下を覗き込んだ瞬間、
ババはんが、
キタムラのケツに蹴りを入れたので、
キタムラは、落下した。
この出来事のせいで、
キタムラは、
打撲による両足麻痺の後遺症で、
松葉杖生活を余儀なくされることになった。
が、
キタムラは、
自分から落ちたことにして、
ババはんを訴えることはしなかった。
ただ、
ナンデやろか?と言う疑問符持ったまま、
二十年が経った。
キタムラは、
どうしても、
あの疑問を解決したくて、
再びあの崖道に、
松葉杖付いてやってきた。
すると、
あの蹴り込み入れたババはんが、
車イスに座って、
海を眺めていた。
二十年というとしつきは、
残酷にも、
ババはんを、
高齢者と言う名の生ける屍へと変化させていた。
キタムラが、ババはんに近付いた。
そしたら、
手に、
日焼けして黄ばんだ封書を握っていた。
封書には、
「海に落ちたお医者さんへ」と書かれていた。
ババはんがキタムラに気付いた。
それで、
封書を渡そうとした、
が、
風に吹かれて、海に飛ばされた。
キタムラは慌てて、封書を追いかけたが、間に合わなかったので、
崖下の海を悔しく見下ろしていたら、
いきなり、ババはんが、車イスから立ち上がって、
キタムラのケツに蹴りを入れた。
キタムラは、
落下した。
ババはんは、
この蹴り込み入れたせいで、
足を複雑骨折して、
そのまま弱って、死んだ。
キタムラは、
この出来事のせいで、
下半身不随になり、
生涯、
車イスで生きることになった。