§6
中間テストも間近だから俺は勉強に専念することにした。
あれ以来京子さんに顔を合わせるのが恥ずかしくて、気を紛らわせようとしたこともあるが。
あの日の翌朝、俺がマリ子に文句を言ってやろうとしたら、あいつの方が先にこう切り出した。
「昨日失敗したそうね。ごめんね、まさか気づかれてるとは思わなかったわ。ちょっとあたしと顔を合わした時にどうやら何かあるって感づかれたみたい。ほんとにごめん。みんなあたしが悪いんだわ」
先にそんな風に言われたら、こちらの言うことがなくなってしまった。それでマリ子のことは許してやることにしたが、とにかくどうしようもなく、当分は勉強に打ち込むことにした次第だった。
日曜日、浩二を家に呼んで一緒に勉強をすることにした。奴の分からないところはずばり重要なところで、それを教えることでこちらも覚えられるという一石二鳥の効果があった。無駄な話もするけれど、結構勉強もはかどる物である。
4時頃気分転換に散歩に出かけようと奴が言い出したので、それもそうだな、と二人してちょっと出かけることにした。
なんとなくブラブラしていると、偶然マリ子に出会った。
「勉強やってるのかって思ってたら、こんなところぶらついてるの?」
憎たらしげにあいつが言った。
「今、休憩中なんだ。青木君も来ない?」
「おい、よせよ。休みの日までこいつにそばにいられると、息が詰まりそうになるじゃないか。そのための休日なんだから」
「あらっ?じゃあ、もうあんたの秘書辞めようかな」
あいつはいつもそう言っては俺の困る顔を見たがってやがるんだ。正直マリ子に手を引かれたらこの先俺が困ってしまうことになるのがはっきり見えていた。
「わかったよ、今の言葉はなかったことにしてくれ」
「毎度どうも」
とにかくこればっかりはしょうがない。なまじ俺が二枚目だったため、まさかこんな形で強請られる羽目になろうとは思いもしなかった。
「ところで、最近どうしたの?」
「……?……」
俺は一瞬、何のことかわからなかった。
「京子のこと。もうあきらめたの?」
「ああ、そのことか」
確かに最近はなるべく忘れるようにしていることは事実である。あの思い出しても恥ずかしくなる出来事を少しでも早く脳裏から消し去りたかった。
「あのさ、俺のこと何か言ってなかった?こっそり後からつけまわすストーカーの嫌らしい痴漢野郎だなんて思われるんじゃないだろうな」
ちょっと気になって尋ねてはみた。
「そうね、まったく何も言ってないけど」
随分そっけなく言いやがったもんだ。
「『まったく』……か?」
「ええ、『まったく』よ」
俺はがっかりした。痴漢やストーカーはともかくとして、ちょっとぐらいは気に掛けてはほしかった。だのにまったく気にもかけていないとは。ああ、この世は真っ暗闇だ。
とか何とかしゃべっていて、ふと気がついたことには、いつの間にか浩二がいなくなっていた。
何て野郎だ。マリ子と別れて急いで家に帰ってみると、もうとっくに帰ったとのこと。どういうことだ。あの野郎、俺に何にも言わずに勝手に帰りやがって。あいつの家にどなりこんでやろうか。本気でそんなことを思ったのだが、よくよく考えてみると、実は俺はまだあいつの家に一度も行ったことがなかったのだ。どういうわけか、一緒に勉強会をしようという時にはいつも奴が俺の家に来るのだった。さらにまずいことに、奴の住所さえ知らなかった。正月前に年賀状を出そうと思った時、そういうのって面倒だし無意味だからやだ、って言われて電話で話をしたんだった。そうそう、電話番号は知ってるんだから、まあ別に騒ぐほどのことでもなかった。そんなわけで、このことも忘れてしまった。
中間テストも間近だから俺は勉強に専念することにした。
あれ以来京子さんに顔を合わせるのが恥ずかしくて、気を紛らわせようとしたこともあるが。
あの日の翌朝、俺がマリ子に文句を言ってやろうとしたら、あいつの方が先にこう切り出した。
「昨日失敗したそうね。ごめんね、まさか気づかれてるとは思わなかったわ。ちょっとあたしと顔を合わした時にどうやら何かあるって感づかれたみたい。ほんとにごめん。みんなあたしが悪いんだわ」
先にそんな風に言われたら、こちらの言うことがなくなってしまった。それでマリ子のことは許してやることにしたが、とにかくどうしようもなく、当分は勉強に打ち込むことにした次第だった。
日曜日、浩二を家に呼んで一緒に勉強をすることにした。奴の分からないところはずばり重要なところで、それを教えることでこちらも覚えられるという一石二鳥の効果があった。無駄な話もするけれど、結構勉強もはかどる物である。
4時頃気分転換に散歩に出かけようと奴が言い出したので、それもそうだな、と二人してちょっと出かけることにした。
なんとなくブラブラしていると、偶然マリ子に出会った。
「勉強やってるのかって思ってたら、こんなところぶらついてるの?」
憎たらしげにあいつが言った。
「今、休憩中なんだ。青木君も来ない?」
「おい、よせよ。休みの日までこいつにそばにいられると、息が詰まりそうになるじゃないか。そのための休日なんだから」
「あらっ?じゃあ、もうあんたの秘書辞めようかな」
あいつはいつもそう言っては俺の困る顔を見たがってやがるんだ。正直マリ子に手を引かれたらこの先俺が困ってしまうことになるのがはっきり見えていた。
「わかったよ、今の言葉はなかったことにしてくれ」
「毎度どうも」
とにかくこればっかりはしょうがない。なまじ俺が二枚目だったため、まさかこんな形で強請られる羽目になろうとは思いもしなかった。
「ところで、最近どうしたの?」
「……?……」
俺は一瞬、何のことかわからなかった。
「京子のこと。もうあきらめたの?」
「ああ、そのことか」
確かに最近はなるべく忘れるようにしていることは事実である。あの思い出しても恥ずかしくなる出来事を少しでも早く脳裏から消し去りたかった。
「あのさ、俺のこと何か言ってなかった?こっそり後からつけまわすストーカーの嫌らしい痴漢野郎だなんて思われるんじゃないだろうな」
ちょっと気になって尋ねてはみた。
「そうね、まったく何も言ってないけど」
随分そっけなく言いやがったもんだ。
「『まったく』……か?」
「ええ、『まったく』よ」
俺はがっかりした。痴漢やストーカーはともかくとして、ちょっとぐらいは気に掛けてはほしかった。だのにまったく気にもかけていないとは。ああ、この世は真っ暗闇だ。
とか何とかしゃべっていて、ふと気がついたことには、いつの間にか浩二がいなくなっていた。
何て野郎だ。マリ子と別れて急いで家に帰ってみると、もうとっくに帰ったとのこと。どういうことだ。あの野郎、俺に何にも言わずに勝手に帰りやがって。あいつの家にどなりこんでやろうか。本気でそんなことを思ったのだが、よくよく考えてみると、実は俺はまだあいつの家に一度も行ったことがなかったのだ。どういうわけか、一緒に勉強会をしようという時にはいつも奴が俺の家に来るのだった。さらにまずいことに、奴の住所さえ知らなかった。正月前に年賀状を出そうと思った時、そういうのって面倒だし無意味だからやだ、って言われて電話で話をしたんだった。そうそう、電話番号は知ってるんだから、まあ別に騒ぐほどのことでもなかった。そんなわけで、このことも忘れてしまった。