丹 善人の世界

きわめて個人的な思い出話や、家族知人には見せられない内容を書いていこうと思っています。

小説「二枚目」§12

2011年04月18日 | 詩・小説
   §12

 あれ以来、マリ子には思いも掛けない暇ができてしまった。
 暇をもてあます様子が学校でもよく見かけられた。ましてふだんの生活にあってはリズムが狂いっぱなしであった。そんなこともあって、俺は責任上マリ子の暇をつぶす手伝いをさせられる羽目になった。
 土曜日曜には互いの家に行ったり外をぶらついたり。ゲーセンや映画館に行けば時間もつぶれるのだろうが、あいつは金をかけるのが嫌いだと言うことで、いたって経済的に時間を潰した。知らない他人が俺たちを見たなら、ただの友だちだと言っても信じてはくれないだろうな。でも俺にとって安心なことは、彼女が京子さんの親友であり、この間の事情を知っていてくれているから、京子さんに誤解される心配がないと言うことだった。それに京子さんのことをマリ子から聞く機会も増えて、それまでマリ子と面と向かって話をすることがなかったのだが、けっこう話もするようになってきていた。

 俺があいつの家に行った時は、あいつは自慢の料理を作ってくれたりもした。料理を作っている時のあいつはけっこう楽しげな様子だった。味付けと言えば噂の胃腸薬など必要はなかった。材料は家に残っている余り物を使っての料理で、これまた金はかかっていないのだが、決してそういうことを感じさせないのだからたいしたものだ。
 あいつの部屋にも入らせてもらったが、さすがに女の子の部屋で、見かけによらず女らしい感性がある部屋で少々びっくりしてしまった。ちょっとあいつに対する見方を変えないといけないのかも知れない。

 あいつが俺の家に来た時は、CDをかけたり、ギターを弾いて一緒にハモったり。あいつ、けっこう歌もこなして、俺の好きな歌をいきなり歌っても、しっかりハモれる程なのには驚いた。考えてみれば俺の部屋に女の子を入れるのは初めてのことだった。正直に言えば初めての女性の来客は京子さんでいてほしかったのだが、そういうことをうっかり忘れてしまって、マリ子を上げてしまって楽しんで、帰らせてから気がついた次第。俺もどうかしている。で、一度部屋にあげてしまって以来、あいつはかなり図々しく俺の部屋に上がり込むようになって、それ以来俺の部屋大変身を遂げるようになってしまった。あいつは少々気が効き過ぎるというか、世話焼きすぎるところが多い。まあこれまではそれで助かっていたのだが、頼みもしないのに部屋をせっせと片付けたり、いろいろ飾り付けもしたり、男では気がつかない部分をしっかりいじりまくってしまった。まあ良いセンスをしているのは確かで、俺にはそんなに不満ではないのだから感謝してもいいのかもしれないが。
 とにかく変な具合になってしまった。俺としたことが、完全にあいつのペースにはまってしまっていた。ああ、これから先どうなってしまうんだろうか。

 外に出かける時は、のんびり何もしないのも良いものだと言うことを確認するかのようにぶらぶら散歩をした。その時に話すあいつの毒舌だけは変わらない。もっともその方がマリ子らしいと言うか、俺としてはむしろ散歩をしている時の方が落ち着く気分だった。