丹 善人の世界

きわめて個人的な思い出話や、家族知人には見せられない内容を書いていこうと思っています。

小説「二枚目」§11

2011年04月16日 | 詩・小説
   §11

 さて浩二はと言えば、あれ以来三枚目ぶりがさえなくなっていた。あいつから三枚目を取ったら何が残るのか。クラスでも何か大きな穴があいたようで、しまりがなくなってしまっていた。そんなわけで、ちょっとあいつをからかってやろうかと思った次第である。

 その日はもうすっかり夏であった。まぶしい光が教室内にも入り込み、とにかく眠たい頃ではあった。そしてちょうど俺の前の席に座っているあ奴も授業中に関わらず眠っていた。俺は時を見計らって奴を揺り起こした。
「大川、大川、起きろ!」
 奴はそのとたん、びっくりして立ち上がった。そして大きな声ではっきりと叫んだ。
「はい、わかりません!」
 急な叫び声にみんなは一斉に注目。すぐに事情が分かって大爆笑となった。先生もあきれながらも笑いながら言った。
「けしからん。外で立っとれ!」
 しかたなく奴は外に出ようとした。ところが奴の眠けはまだ完全には覚めていなくて、扉に激突してしまた。なんてこった。

 その時間が終わって、俺の仕業だと感づいたマリ子が俺に意見しに来たが、クラスに張りが無くなったという俺の話を聞いて、一も二もなく俺に協力することを申し入れた。あいつも俺と同じような事を感じていたらしかった。

 次の休み時間、第二の作戦を開始した。
 マリ子が奴に話しかけ、その隙に奴の背中に『笑ってやって下さい』と書いた紙を貼り付けることにした。
 単純ないたずらではあったが、結果は大成功だった。後で奴の背中を見ると、まだ張り紙はついたままであったが、どういうわけか、そこには奴の署名まで入っていた。どうやら三枚目こそが自分の生きる道だと悟ったらしい。俺はマリ子と顔を見合わせてホッとした物だった。

 それ以来、奴は元に戻ったようである。しかし何かしら、どこか以前とは違うようなところがあるように思われてならなかった。はっきりとは言えないが、俺に対する態度が気がつかないくらいどこか違っているように感じてならなかった。


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