モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

No21:プリングルが採取したサルビア その3

2010-11-01 13:15:19 | メキシコのサルビアとプラントハンター
メキシコのサルビアとプラントハンターの物語 No21 
COP10、生物多様性条約第10回締約国会議が無事終了した。議長国として日本の果した役割は評価されてよいものだろう。
この「生物多様性」が突如出てきたという感をぬぐえない方も多いと思うが、生物の原産地国とこれを利用する国との戦いが現実にあるということで、ミドリムシが将来の食糧にも航空機用の燃料にもなる可能性があるなど、生物(動物・植物・微生物)の価値がますます高まることは間違いない。

プラントハンターが活躍していた時代でも、薬用植物、建築資材となる樹木など人間の生活に有用性な生物に関しては持ち出し禁止などの方策が取られていたが、これがますます厳しくなってきた。
ということを頭の隅においていただき、メキシコのサルビアを数多く採取したプリングルの足跡を追いかけてみたい。

多様な植物の宝庫メキシコの気候


植物の宝庫メキシコの気候について簡単に触れておく。
メキシコは緯度的には熱帯に位置するが、米国と接する北部は標高1000m前後、中央部は2000m前後もある高原の国であり、さらに、南北に二つのシェラマドレ山脈が貫くのでメキシコ湾側の東側は雨量が多く、西側は乾燥した気候となる。
気候図を見てもらえばわかるように、メキシコの北西部は乾燥した砂漠性気候、北東部はステップ気候、その中間に地中海性気候地帯がある。中部はサバナ気候地帯が占め、ユカタン半島の付け根は熱帯雨林、熱帯モンスーン気候と多様な気候地帯がある国だ。
この多様な気候が、多様な生物を育てる環境となり、植物の宝庫ともなっている。
南アフリカ、中国雲南地方なども植物の宝庫であったが、まだまだ未発見の植物があるかもわからない。

プリングルは、メキシコの各地を探検し、プロのプラントハンターとして数多くの植物を採取した。ここでは、サルビアに特化して彼が採取した品種を紹介しているが園芸種として現存しないものが結構ありそうだ。

14. Salvia leucantha Cav. (1791). 


(出典) モノトーンでのときめき

今では日本の秋を彩るサルビアとなりつつあり、英名では、「メキシカンブッシュセージ(Mexican Bush Sage)」と呼ばれるようにメキシコ原産のブッシュ的に大株に育つ。
目立つ花なのでスペイン人によって1700年代に発見されたようだが誰かはわからない。このシリーズNo9でとりあげたグレッグ(Josiah Gregg 1806 -1850)が、1849年4月にコアウイラ州サルティロで採取したのが記録に残る最初となっている。
プリングルは、これより遅れて1902年10月16日にメヒコ州でこのはなを採取している。原種はベルベット・タッチの白い花だが、赤紫の花もある。この種は、サルビア・レウカンサ‘ミッドナイト’(Salvia leucantha 'Midnight')である。
植物情報に関してはここを参照していただきたい。

15. Salvia littae Vis. (1847).  サルビア・リッタエ


(出典)Robin’s Salvias

サルビア・リッタエは、メキシコ、オアハカ原産で、湿ったオークの森の端に群生し、花穂は30cmほどに成長し秋から冬にかけて赤紫色のベルベットのような生地の花が咲く。ライムライトの萼がこの花色をさらに引き立て魅力を増す。茎は横に広がり地面に接するとそこから発根する。

命名は、イタリア,パドーヴァ大学の植物学教授Visiani, Roberto de (1800-1878)が1847年に記述しているが、この初期の採取者はわかっていない。プリングルは、1894年10月18日にオアハカ州の2700mのところでこれを採取している。

16. Salvia lycioides A. Gray (1886). サルビア・リシオイデス


(出典) Robin’s Salvias

サルビア・リシオイデスは、Canyon sage(峡谷のセージ)とも呼ばれるが、メキシコ北部から米国南部の乾燥した石灰質の峡谷に自生し、草丈30-45cmと丈が低く横に広がるように生育する。
プリングルがこのサルビアの第一発見者で、メキシコ北部にあるチワワ州のサンタ・エウラリアで1886年10月2日に採取している。サンタ・エウラリアは、1652年にスペインのキャプテンDiego del Castilloによって創られた鉱山町でチワワ州では最も古い集落のようだ。
このサルビアの青花はとても美しいが、出自はまだ混乱があるようだ。葉は灰緑色なのでサルビア・ムエレリと混同することもないが、サルビア・グレッギーと交雑しやすいのでその変種と間違えられるようだ。

17. Salvia melissodora Lag. (1816)  サルビア・メリッソドラ


(出典)Botanic Garden

No7:サルビア・パテンスを園芸市場に持ち込んだプラントハンター、ハートウェグ

メキシコ、シエラマドレ西側の山脈地帯で、チワワから南のオアハカまでの1200-2500mの乾燥した山中に自生し、そのたたずまいは上品であり灰緑色の葉からはグレープの香りがし、Grape-scented sageとも呼ばれている。すみれラベンダーの花にはミツバチ・蝶・ハチドリなどがひきつけられ、初霜の時期から春まで開花する。
日本で育てる場合は、温度管理が重要で軒下などの日当たりが良いところで育てる。
メキシコのタラフマラ族のインディオに解熱剤として長く使われてきたハーブでもある。
1837年にハートウェグがメキシコで採取したのが記録に残る最初だが、命名は、スペインの植物学者で1800年にカバニレス(Cavanilles, Antonio José 1745 - 1804)と出会い彼の弟子になり、後にマドリード植物園の園長となったMariano Lagasca y Segura (1776 -1839)が1816年に「Salvia melissodora」と命名したので、メキシコの植物調査を行って1803年にマドリッドに戻ったセッセ(Sessé y Lacasta, Martín 1751-1808)探検隊の採取した植物標本に含まれていたのかもわからない。
プリングルは、1903年10月6日にこのサルビアを採取しているので、ハートウェグよりかなり遅れた採取だ。

18. Salvia mocinoi Benth.(1833) サルビア・モシノイ

  
(出典)Conabio

このサルビアは、スペインの植物学者セッセ(Sessé y Lacasta, Martín 1751-1808)が時期不明だがメキシコで採取している、1803年以前であることは確かなようだ。
プリングルは、1899年2月8日にメキシコ、モレーロス州の2200mのところで採取している。しかし、植物情報が少なくわずかに青紫の花が咲くサルビアということしかわからない。

19. Salvia occidentalis Sw. (1788). サルビア・オキシデンタリス


(出典) Institute of Pacific Islands Forestry

サルビア・オキシデンタリスは、1788年にスウェーデンの植物学者スワーツ(Swartz, Olof or Olavo (Peter) 1760-1818)によって命名されている。スワーツは、ウプサラ大学でのリンネの弟子であり、多くの弟子が世界の植物調査に出かけたように彼も1783-1786年に北米・西インド諸島、特にジャマイカの植物調査を行う。
このサルビアは、West Indian sageとも呼ばれ、西インドの先住民が歯痛の時に使っていたという。
アメリカ南部からメキシコ、カリブ諸島の50-1000mの低地の比較的湿ったところに生息し、丈が低く横に広がりブッシュを形成し、大き目の卵形の葉、ブルーの小さな花が咲く。しかし、植物情報は豊富でない。
多くのプランとハンタが中南米・カリブで採取しているが、時期不明なものが多い。ダーウイン(Darwin ,Charles Robert 1809-1882)が1835年にガラパゴス諸島で採取したのが記録に残る最初のようだ。
プリングルは、1900年5月10日にベラクルーズ州ハラパでこのサルビアを採取している。
ダーウインが上陸した頃のガラパゴス諸島は、囚人の流刑地だったというので、囚人達も歯が痛いときはこのサルビアを使っていたのだろう。

(続く)

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