モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

サルビア・エレガンス(Salvia elegans)の花

2019-10-18 11:14:22 | セージ&サルビア
(写真)サルビア・エレガンスの花


透きとおった上品な赤とはこの色のことを言うのだろう。
秋の終わりに咲き始めるサルビアは数少なく、今シーズンのフィナーレを飾る赤色の花の一つとなる。
葉からはパイナップルの香りがするので「パイナップルセージ」 とも呼ばれる。

また、花の形は、花粉を運んでくれる誰にでも好かれる形状ではなく、特定の昆虫・鳥にだけ好かれるようにできている。
空中に停止する飛行(ホバリング)が出来ないとご褒美の蜜が吸えないようになっており、わが庭では、ホシホウジャク(蜂雀、humming‐bird moth)が毎日巡回飛来し、蜜を集めている。
このホウジャク、蜂の種類かと思うほどだが実際はガ(蛾)の一種なのだ。

(写真)ホシホウジャク

(出典)虫の写真図鑑、スズメガ図鑑

原産地は、メキシコの標高2000-3000mの高地に自生していて、鳥の仲間のハチドリ(humming bird)が蜜を吸うために空中に停止し、花粉を運んでいる。

パイナップルセージ、命名の歴史

この素晴らしい花のために用意された学名は、「サルビア・エレガンス(Salvia elegans)」であり、
1804年にリンネの使徒の一人でもあるファール(Vahl, Martin (Henrichsen) 1749‐1804)が命名した。ファール55歳で亡くなった年でもある。
(写真)Martin Vahl
 
(出典)ウイキペディア

命名者 ファールは、デンマーク・ノルウェーの植物・動物学者であり、
ウプサラ大学でリンネに学び、ヨーロッパアフリカなどの探索旅行をし、アメリカの自然誌をも著述し、彼が最初に記述したサルビア(Salvia tiliifolia)などもある。

しかし、この素晴らしい花を誰が発見したか良くわかっていない。
記録に残っているサルビア・エレガンスの命名の歴史を振り返るとヒントが隠されていた。

ファールが命名する4年前の1800年に、スペインの大植物学者 カバニレス(Cavanilles, Antonio José(Joseph) 1745‐1804)によってメキシコ原産のパイナップルセージは、「Salvia incarnata」と命名された。
種小名の“incarnata”は、ヒガンバナのような赤色だが、“肉色”の赤を意味する。
だが、この名前は認められなかった。

(写真)Cavanilles, Antonio José
 
(出典)ウイキペディア

理由は、ドイツのニュールンベルグにあるFriedrich-Alexander・Universityで21歳になったエトリンガー(Etlinger, Andreas Ernst 1756‐1785)が、
博士号を取得するためのサルビアをテーマとした論文で1777年に 「Salvia incarnata」 という名前をすでに使用・発表していたので、カバニレスの命名は認められなかった。

エトリンガーが「Salvia incarnata」(肉色のサルビア)と命名した植物は、
実際は違ったサルビアで、正式な学名は「Salvia fruticosa」(フルーティなサルビア)という。
下の写真のような淡い色合いのサルビアに、「Salvia incarnata」(肉色のサルビア)というような名前を付けるだろうか?
御覧の通り大分大きな勘違いがあったようだ。学生だからしょうがないか! と言えばそれまでだが・・・・・。
(写真)Salvia fruticosa

(出典)ウイキペディア

本来ならば、パイナップルセージの原産地(メキシコ)の宗主国、スペインの方が組織的に植物のサンプルを収集し、母国のマドリード王立植物園に集めていただけに、
また、その園長を務めていたカバニレスの方が分が良いはずだが、どこかで手違いがあった。

パイナップルセージのコレクターの歴史

記録に残っている最初の採取者は、1841年にメキシコの1000mのところで採取されているが採取者の名前はわからない。
1891 年には「サルビア・レウカンサ」などメキシコの美しい花を採取したプリングル(Pringle, Cyrus Guernsey 1838‐1911)も採取している。

カバニレスが命名したパイナップルセージを採取したのは、
マラスピーナ探検隊(期間:1786 to 1788、1789 to 1794)に植物学者として参画した ニー(Née, Luis 1734-1801) だった。
1791年10月にメキシコ中央北にあるケレタロで採取し、この標本をカバニレスがニーの自宅で見た。ということが分かっている。

・※マラスピーナ探検隊とは、スペイン国王チャールズ三世(Charles III 1716-1788)がスポンサーとなり、イタリアの貴族でスペインの海軍士官・探検家マラスピーナ(Malaspina ,Alessandro 1754 – 1810)を隊長に、太平洋・北アメリカ西海岸・フィリピン・オセアニアを科学的に調査する探検隊を派遣した。この探検隊に二人の植物学者、Neeとチェコの植物学者・プラントハンターのTadeo Haenke(1761-1816)が参加した。

(写真)Née, Luis (1734 - 1803)

(出典)Australian National Herbarium

しかし、カバニレス程の大学者が命名ミスをしてしまったが、他国の大学の博士論文まで目が行き届かなかったのだろう。ましてや見た目から想像できない名前までチェックできなかったのだろう。
カバニレスは、玄人・プロが陥るわなにはまってしまったようだ。

更に気になる学名があった。
『Salvia longiflora Sessé & Moc. 1887.』だった。
1787‐1803年までの16年間に及ぶセッセ探検隊の、
セッセ(Sessé y Lacasta, Martín 1751-1808)モシニョー(Mociño, José Mariano 1757-1820)がパイナップルセージに「Salvia longiflora」 (longiflora=長い花)と命名していることだ。

メキシコ到着の時期からみても、ニー(Née, Luis)よりも早く到着し探検していたセッセ達がおそらく最初の採取者だったのだろう。
ただ残念なことにセッセ探検隊の成果は、歴史の谷間に沈み込み、再発見された1887年に発表されたので正式な学名として認められなかった。

パイナップルセージは “elegans(優美な)” が最も似合うサルビアだと思う。
カバニレスの“incarnata(肉色)”、セッセ達の“longiflora(長い花)”でなくて良かったと思う。 

スペインの大植物学者 カバニレスにとっての邪魔者エトリンガーは、パイナップルセージにとって最高の働きをしたと思うがいかがだろう?
彼がいなければ、パイナップルセージは “肉色のサルビア”になっていた。

園芸市場に出現したのは1870年の頃といわれていて、今では世界の秋をエレガントに魅了する花となっている。

育て方は夏場の水切れと冬場の霜対策が厄介だが、これ以外はいたって簡単で育てやすい。

(写真)サルビア・エレガンスの葉と花


サルビア・エレガンス(Salvia elegans)
・シソ科アキギリ属の半耐寒性の常緑低木。
・学名は、サルビア・エレガンス(Salvia elegans Vahl, 1804)、英名・流通名がパイナップルセージ(Pineapple sage)。
・原産地はメキシコ。標高2000~3000mの高地に生息。
・丈は成長すると1m前後。鉢植えの場合は、摘心して50cm程度にする。
・耐寒性は弱いので、冬場は地上部を刈り込みマルチングするか軒下などで育てる。
・耐暑性は強いが乾燥に弱いので水切れに注意。
・開花期は、晩秋から初冬。短日性なので日が短くならないと咲かない。
・花は上向きにダークが入った濃い赤で多数咲くので見栄えが良い。
・葉をこするとパイナップルの香りがする。
・茎は木質化するまでは非常にもろく折れてしまいやすいので、台風などの強い風の時は風を避けるようにする。

【付録 ハチドリ】
新大陸アメリカでは ハチドリ(Hummingbird) 、オセアニア・旧大陸では タイヨウチョウ 、日本では、ホウジャク(蜂雀、 humming‐bird moth)が、毎秒50回以上の高速羽ばたきをし空中に止まるというホバリングをし、大好物の花の蜜を食べる。
このホバリングする鳥、蜂、蛾に最適な蜜を吸いやすい構造に進化したのがサルビア・エレガンスの花の形態だ。

そういえば、ペルーのナスカの地上絵にもハチドリの絵が描かれている。

(写真)ナスカのハチドリの絵

(出典)ウイキペディア ナスカの地上絵


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3 コメント

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有難うございました。 (kazuko)
2009-10-27 21:38:16
有難うございました。工夫してみます。根づくまでは温かくした方がよいのかな?とおもってるのですが・・。
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和さん (キャスパー)
2009-10-27 10:09:40
さし芽ですが、屋根のある駐車場の端においてます。霜が降りないので外でも大丈夫です。
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嵐が・・ (kazuko)
2009-10-26 19:37:02
今、外は嵐のようです。サルビア・エレガンスはどうしているでしょう。地植えにして、3年くらい。耐寒性を心配しながら半日日陰に植えましたが、無事根づき、大きな株になりました。赤い色ですが、ほっそりしてるところが上品ですね。・・サルビアの香りというものは、確かにエレガンスですね。特に、このサルビアなどは・・。

ところでキャスパー様、挿し芽なのですが、作った後、どのような場所にそちらではおかれますか?よろしかったらお教えくださいませ。
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