「キャリアコンサル」国家資格に 10万人計画はチャンス?
求職者と求人企業のマッチングをしたり、企業内で社員の仕事コースの相談に乗ったりする「キャリアコンサルタント」が4月から国家資格になる。無資格者は名乗れなくなり、女性や中高年男性が注目する。同資格を持つ人を、厚生労働省は2024年度末までに現在の2倍の10万人に増やす計画だ。取得に30万~40万円かかるが、将来性はどれほどなのだろうか。
■仕事コース相談、企業の活用カギ
日立製作所キャリアサービスグループ部長代理の小寺亜美さん(47)は毎月2~3回、1泊2日で係長級社員が対象の「キャリア開発ワークショップ」を開く。参加者は毎回約20人で年間800人に及ぶ。
小寺さんは複数の民間キャリアコンサルタント資格の持ち主だ。10年の営業経験と専門知識を組み合わせて「社員のキャリア意識を目覚めさせ、自己分析を促す場」にしている。夜には参加者の半数程度から個別のキャリア相談を受ける。
日立が社員のキャリア意識を重視するようになったのは00年ごろ。ITサービス化、世界展開で、かつてのインフラ事業主体から社業が大きく転換した。社員個人の知識の重要性が増し、自立への意識変革が必要になった。ワークショップは02年、側面支援する形で始まった。
06年にはラインの上司と部下の間でキャリア面談が始まった。つまり日立は側面・正規の両ルートでキャリア開発をしている。小寺さんは「自分たちの役割はまだ小さく課題も多い」と話すが、同社ではコンサルタントが有効に機能し始めていると言える。
◇ ◇
このキャリアコンサルタント資格が大きな変化に見舞われている。
もともとは民間資格として発達した。最大手は特定非営利活動法人日本キャリア開発協会(東京・中央)で、約1万5000人にキャリア・デベロップメント・アドバイザー(CDA)を認定している。厚生労働省は少し遅れて積極的になり、社員がCDAなど10の民間資格を取った場合、所属企業に助成金を出す養成促進策を始めた。こうした民間資格を持つ人を「標準レベルコンサルタント」と総称する。
08年にはベテランコンサルタント向けの「熟練・指導レベル」資格として、国が「キャリア・コンサルティング技能士1級・2級」の検定を始めた。標準レベルは民間、上位資格は国という形になった。
安倍晋三内閣の産業競争力会議は13年末、労働力の流動化を目指し、キャリアコンサルタントの積極活用を打ち出した。これを受けた厚労省は15年、職業能力開発促進法を改正。民間資格だった標準レベルコンサルタントはこの4月から国家資格になる。
同省キャリア形成支援課長補佐の東良史絵さんは「以前から厚労省の研究会はコンサルタント制度がキャリア形成の有効なインフラになると指摘していた。国家資格化で資質と認知度の向上が図れる」と説明する。
国家資格化について関係者は総じて肯定的だ。日本キャリア開発協会理事長の立野了嗣さんは「労働力移動が増す今の時代、国家資格化はなるべくしてなったこと」と話す。技能士で作るキャリア・コンサルティング技能士会(東京・港)の代表幹事の文川実さんは「10団体が別々でやるより1つの国家資格にまとまることでわかりやすくなる」とみる。
◇ ◇
厚労省は現在5万人弱のコンサルタントを、24年度末に10万人に倍増させる計画だ。企業内での活用を前提とする。しかし、日立の小寺さんのように企業に正社員として勤めながら人材開発に関与するキャリアコンサルタントは少数派だ。
厚労省の13年の委託調査によると企業所属のコンサルタントは21.6%。10年の調査時とほぼ変わらず、06年比で2.6ポイント下がった。大多数はハローワークや大学の就職支援部門、民間就職支援機関に所属している。相談内容は人材マッチングに偏り、本来業務であるキャリア育成に携わる人は少ない。
資格取得にかかる費用と収入が見合うかも課題だ。すでに民間資格を持っている人は、経過措置として簡単な登録で国家資格者を名乗れる。しかし、新たに取る人は140時間の講習と試験で30万~40万円が必要になる。
一方、10年の厚労省調査によると、ハローワークなど公共機関で働くコンサルタントは非正規が86.2%。年収は100万円以上300万円未満が46.9%と最も多い。企業勤務のコンサルタントは正社員が多いため年収800万円以上が40.1%いる。落差は大きい。企業への普及こそ、キャリアコンサルタントが職業として成り立つカギであることは明らかだ。
19日に東京都内で開かれた特定非営利活動法人キャリア・コンサルティング協議会(東京・港)主催の事例発表・経験交流会では、ソニーやノーリツがコンサルタント活用の状況を報告した。会場にいた40代の男性は「コンサルタント活用の利点を、どう企業が納得するかが課題だ」と話していた。
(礒哲司)
求職者と求人企業のマッチングをしたり、企業内で社員の仕事コースの相談に乗ったりする「キャリアコンサルタント」が4月から国家資格になる。無資格者は名乗れなくなり、女性や中高年男性が注目する。同資格を持つ人を、厚生労働省は2024年度末までに現在の2倍の10万人に増やす計画だ。取得に30万~40万円かかるが、将来性はどれほどなのだろうか。
■仕事コース相談、企業の活用カギ
日立製作所キャリアサービスグループ部長代理の小寺亜美さん(47)は毎月2~3回、1泊2日で係長級社員が対象の「キャリア開発ワークショップ」を開く。参加者は毎回約20人で年間800人に及ぶ。
小寺さんは複数の民間キャリアコンサルタント資格の持ち主だ。10年の営業経験と専門知識を組み合わせて「社員のキャリア意識を目覚めさせ、自己分析を促す場」にしている。夜には参加者の半数程度から個別のキャリア相談を受ける。
日立が社員のキャリア意識を重視するようになったのは00年ごろ。ITサービス化、世界展開で、かつてのインフラ事業主体から社業が大きく転換した。社員個人の知識の重要性が増し、自立への意識変革が必要になった。ワークショップは02年、側面支援する形で始まった。
06年にはラインの上司と部下の間でキャリア面談が始まった。つまり日立は側面・正規の両ルートでキャリア開発をしている。小寺さんは「自分たちの役割はまだ小さく課題も多い」と話すが、同社ではコンサルタントが有効に機能し始めていると言える。
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このキャリアコンサルタント資格が大きな変化に見舞われている。
もともとは民間資格として発達した。最大手は特定非営利活動法人日本キャリア開発協会(東京・中央)で、約1万5000人にキャリア・デベロップメント・アドバイザー(CDA)を認定している。厚生労働省は少し遅れて積極的になり、社員がCDAなど10の民間資格を取った場合、所属企業に助成金を出す養成促進策を始めた。こうした民間資格を持つ人を「標準レベルコンサルタント」と総称する。
08年にはベテランコンサルタント向けの「熟練・指導レベル」資格として、国が「キャリア・コンサルティング技能士1級・2級」の検定を始めた。標準レベルは民間、上位資格は国という形になった。
安倍晋三内閣の産業競争力会議は13年末、労働力の流動化を目指し、キャリアコンサルタントの積極活用を打ち出した。これを受けた厚労省は15年、職業能力開発促進法を改正。民間資格だった標準レベルコンサルタントはこの4月から国家資格になる。
同省キャリア形成支援課長補佐の東良史絵さんは「以前から厚労省の研究会はコンサルタント制度がキャリア形成の有効なインフラになると指摘していた。国家資格化で資質と認知度の向上が図れる」と説明する。
国家資格化について関係者は総じて肯定的だ。日本キャリア開発協会理事長の立野了嗣さんは「労働力移動が増す今の時代、国家資格化はなるべくしてなったこと」と話す。技能士で作るキャリア・コンサルティング技能士会(東京・港)の代表幹事の文川実さんは「10団体が別々でやるより1つの国家資格にまとまることでわかりやすくなる」とみる。
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厚労省は現在5万人弱のコンサルタントを、24年度末に10万人に倍増させる計画だ。企業内での活用を前提とする。しかし、日立の小寺さんのように企業に正社員として勤めながら人材開発に関与するキャリアコンサルタントは少数派だ。
厚労省の13年の委託調査によると企業所属のコンサルタントは21.6%。10年の調査時とほぼ変わらず、06年比で2.6ポイント下がった。大多数はハローワークや大学の就職支援部門、民間就職支援機関に所属している。相談内容は人材マッチングに偏り、本来業務であるキャリア育成に携わる人は少ない。
資格取得にかかる費用と収入が見合うかも課題だ。すでに民間資格を持っている人は、経過措置として簡単な登録で国家資格者を名乗れる。しかし、新たに取る人は140時間の講習と試験で30万~40万円が必要になる。
一方、10年の厚労省調査によると、ハローワークなど公共機関で働くコンサルタントは非正規が86.2%。年収は100万円以上300万円未満が46.9%と最も多い。企業勤務のコンサルタントは正社員が多いため年収800万円以上が40.1%いる。落差は大きい。企業への普及こそ、キャリアコンサルタントが職業として成り立つカギであることは明らかだ。
19日に東京都内で開かれた特定非営利活動法人キャリア・コンサルティング協議会(東京・港)主催の事例発表・経験交流会では、ソニーやノーリツがコンサルタント活用の状況を報告した。会場にいた40代の男性は「コンサルタント活用の利点を、どう企業が納得するかが課題だ」と話していた。
(礒哲司)