売り手市場が現実ではない。
有効求人倍率が、上昇していても、失業率は3%を割らない現実があるのと一緒。
新卒採用の量より質に転換し、組織構造が変わってしまった今、
以前のような「売り手市場」ではないのだ・
この辺を間違えてはいけない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■取り残される「第2グループ」
「他社の内定は取れていますか」「……まだです」
6月1日の選考解禁から数日たった都内の面接会場。新卒学生の採用面接を担当したある企業の中堅社員は、意外な思いを禁じ得なかった。エントリーシートに記された出身大学は、一流大学ばかり。業界他社の選考状況を聞いてみると、ある程度は進んでいるようだが、ほとんどの学生は「内定なし」と答える。「報道されていることと違うじゃないか」(同社員)
就職情報会社のディスコ(東京・文京)が発表した2017年春卒業予定の大学・大学院生の就職内定率は、1日時点で54.9%と高水準だ。2日公開の就活探偵団「ルポ6月1日面接解禁 扉を開けたら2分で内定」でも紹介したとおり、企業のフライング採用活動によって内々定を獲得した学生が次々と現れた。「スピード内定組」である先頭集団は大きく就活でリードしているようだ。
しかし、マラソンでも同じように、ボリュームが大きいのは「第2グループ」。彼らはついてきているのだろうか。都内の有名私立大に通う男子学生は、食品メーカーを志望し、大手企業を中心に受けてきた。しかし数社の選考からは既に落ち、「間口が広がったという実感がない」と漏らす。「むしろ間口を広げなくてはいけないのはこちらかも…」という。
既に1社から内々定を獲得した都内私立大の女子学生もまだ就職先を決められずにいる。「売り手という実感はない」と疲れ気味の表情だ。別の女子学生は「自分は何とか内々定を取れたけれど、友達の間では取れた人とそうでない人が半々くらいだ」と話す。
水面下で選考を済ませて早々に内々定を手に入れたグループがいながら、なぜ選考が思うようにいかない就活生がいるのか。探偵団の取材の結果、大手企業は面接が解禁される6月以前から「面談」などと称して優秀な学生を先行して囲い込んできた。これが先頭グループだ。これに続く面接解禁後に選考が始まった第2グループの就活生に対して、企業側の採用事情の影響が表面化しつつあるようだ。
■数より質で厳選採用
背景の一つが企業が数よりも質を重視し始めている点だ。確かに景気回復もあり、この5年間で年間の新卒の就職者数は2割増えた。その一方で「厳選採用」の傾向は強まっている。採用計画数の達成のために何が何でも学生の数を確保するのではなく、優秀な学生を採用できれば選考を打ち切るやり方だ。
人手不足が深刻な建設業界。新卒採用者数を増やして人手の確保を図ってもおかしくない。ところが、大手ゼネコンの採用の現場の声は、業界の活況とは正反対の冷静な声だった。
大手ゼネコンの人事担当者は「人数を確保するために選考基準を甘くすることは考えていない。仕事の量に合わせて人を増やすようなことはしないのが社長の方針だ」とばっさり。では、人手不足にはどう対応するのかというと、「中途採用に力を入れて補う」。
大手電機メーカーも同様の答えだった。今年の採用予定者数は昨年度の実績より20人減らした。「各事業部のスペックを満たす人材がいれば採用する。あくまでスペック重視だ」(同社)。質を重視し、採用人数に誤差が出ることをいとわない。昨年度は選考基準を超える優秀な応募者が多かったが、あえて予定採用者数を超えて採用したという。
「数を重視すると人材の質にばらつきが出る。早期退職の可能性も高まり育成計画も狂いかねない」(同社)と、売り手市場に任せて採用した場合の後への影響を心配する。
大手IT(情報技術)企業も基準に満たない人材は採用できないと断言する。語学力などの基準を甘くして人材を採ったとしてもミスマッチが起きるため、採用基準を変えるつもりはない。いたずらな数の追求は、採用後のトラブルの温床になりかねないとの懸念もあるようだ。
■多様性を求める企業
新卒で入社を目指す学生にとっては耳の痛い話だが、日本企業がこぞって唱える「ダイバーシティー(人材の多様性)」が、さらに門を狭める。企業は人材、スキルの多様な中途や第二新卒を積極的に活用するようになってきている。日本経済新聞社が4月にまとめた調査でも16年度の中途採用者数は3万6219人と、15年度に比べて9.0%伸びる見通しだ。
大手人材派遣のインテリジェンスはこの5年、新卒入社数は横ばいだが、中途入社を3倍に増やした。理由は「社員に多様性を求めるため」。サントリーの15年の中途採用も、10年比で約2割多かった。こちらも「社員に多様性を持たせるため」と話す。
アイリスオーヤマは今年度に初めて第二新卒の選考を導入した。新卒と同じ選考過程に乗せ、それぞれの採用数の規定は設けない。倉茂人事部統括マネージャーは「多様な経験を持った第二新卒に期待したい。新卒一括採用から移行する1つのステップにしたい」と日本の採用慣行からの脱却までを見通している。
これまでも、多様性を求める企業の採用方針の結果、外国人留学生などの採用が増えてきた。加えて中途採用市場が盛り上がりつつあり、現役就活生にとっては手ごわいライバルがさらに増えることになる。
採用コンサルタントの谷出正直氏は、「近年は採用難もあり、第二新卒や中途も新卒と同様に、入社後の成長を重視して選考する傾向が出ている」と指摘。新卒と既卒の学生が同じ土俵に乗っている可能性を示唆する。
その中で、企業にとって第二新卒や中途採用は入社時期を柔軟に調整しやすいほか、「社会人のマナーを身につけていたり、働くことについて『今回は失敗しない』との覚悟や意欲があったりということを、一定程度期待できる」。では、新卒入社を目指す学生は第二新卒や中途採用にどう立ち向かえばいいのか。その差を埋めるためには、「雇用されることの責任を自覚し、社会人としてしっかり成果を出すとの気概を面接で訴えることが必要だ」と助言する。
■学生の過半数が「今年の就活は楽」
就活生側も「売り手」という言葉に踊らされている面はないだろうか。就職情報のマイナビ(東京・千代田)が今年4月に「今年の就活は去年に比べてどうなるか」聞いた調査。17年卒の大学生のうち、「楽になる」と答えた割合が53.9%で、前年に比べると17.9%上昇している。多くの学生が就活に関して比較的余裕を持っているようだ。
都内国立大の女子学生は1日以降、毎日3~4件の面接が入っていた。だが5日以降、連絡はぱたりと途絶えた。「売り手市場とは聞いていたが油断していたつもりはない。なぜ通らないのかな」と落ち込む。持ち駒が減りつつある中で受けた大手海運の面接。面接官からは「今年は売り手市場だから大丈夫だよ」と言われた。「何言っているんだろうという感じ」。売り手市場とは何なのか。そう考えふさぎ込む日々が続いている。
「売り手市場」とはいえ、多くの就活生が殺到する大手企業。企業側は数を重視した際のトラブルを警戒し、採用には慎重になっている。そして「売り手市場」の言葉は学生に限らず、中途採用を目指す若手の社会人にも向けられている。本番を迎えた「第2グループ」の闘いは、簡単なものではなさそうだ。
(結城立浩、岩崎航、飯島圭太郎)
有効求人倍率が、上昇していても、失業率は3%を割らない現実があるのと一緒。
新卒採用の量より質に転換し、組織構造が変わってしまった今、
以前のような「売り手市場」ではないのだ・
この辺を間違えてはいけない。
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■取り残される「第2グループ」
「他社の内定は取れていますか」「……まだです」
6月1日の選考解禁から数日たった都内の面接会場。新卒学生の採用面接を担当したある企業の中堅社員は、意外な思いを禁じ得なかった。エントリーシートに記された出身大学は、一流大学ばかり。業界他社の選考状況を聞いてみると、ある程度は進んでいるようだが、ほとんどの学生は「内定なし」と答える。「報道されていることと違うじゃないか」(同社員)
就職情報会社のディスコ(東京・文京)が発表した2017年春卒業予定の大学・大学院生の就職内定率は、1日時点で54.9%と高水準だ。2日公開の就活探偵団「ルポ6月1日面接解禁 扉を開けたら2分で内定」でも紹介したとおり、企業のフライング採用活動によって内々定を獲得した学生が次々と現れた。「スピード内定組」である先頭集団は大きく就活でリードしているようだ。
しかし、マラソンでも同じように、ボリュームが大きいのは「第2グループ」。彼らはついてきているのだろうか。都内の有名私立大に通う男子学生は、食品メーカーを志望し、大手企業を中心に受けてきた。しかし数社の選考からは既に落ち、「間口が広がったという実感がない」と漏らす。「むしろ間口を広げなくてはいけないのはこちらかも…」という。
既に1社から内々定を獲得した都内私立大の女子学生もまだ就職先を決められずにいる。「売り手という実感はない」と疲れ気味の表情だ。別の女子学生は「自分は何とか内々定を取れたけれど、友達の間では取れた人とそうでない人が半々くらいだ」と話す。
水面下で選考を済ませて早々に内々定を手に入れたグループがいながら、なぜ選考が思うようにいかない就活生がいるのか。探偵団の取材の結果、大手企業は面接が解禁される6月以前から「面談」などと称して優秀な学生を先行して囲い込んできた。これが先頭グループだ。これに続く面接解禁後に選考が始まった第2グループの就活生に対して、企業側の採用事情の影響が表面化しつつあるようだ。
■数より質で厳選採用
背景の一つが企業が数よりも質を重視し始めている点だ。確かに景気回復もあり、この5年間で年間の新卒の就職者数は2割増えた。その一方で「厳選採用」の傾向は強まっている。採用計画数の達成のために何が何でも学生の数を確保するのではなく、優秀な学生を採用できれば選考を打ち切るやり方だ。
人手不足が深刻な建設業界。新卒採用者数を増やして人手の確保を図ってもおかしくない。ところが、大手ゼネコンの採用の現場の声は、業界の活況とは正反対の冷静な声だった。
大手ゼネコンの人事担当者は「人数を確保するために選考基準を甘くすることは考えていない。仕事の量に合わせて人を増やすようなことはしないのが社長の方針だ」とばっさり。では、人手不足にはどう対応するのかというと、「中途採用に力を入れて補う」。
大手電機メーカーも同様の答えだった。今年の採用予定者数は昨年度の実績より20人減らした。「各事業部のスペックを満たす人材がいれば採用する。あくまでスペック重視だ」(同社)。質を重視し、採用人数に誤差が出ることをいとわない。昨年度は選考基準を超える優秀な応募者が多かったが、あえて予定採用者数を超えて採用したという。
「数を重視すると人材の質にばらつきが出る。早期退職の可能性も高まり育成計画も狂いかねない」(同社)と、売り手市場に任せて採用した場合の後への影響を心配する。
大手IT(情報技術)企業も基準に満たない人材は採用できないと断言する。語学力などの基準を甘くして人材を採ったとしてもミスマッチが起きるため、採用基準を変えるつもりはない。いたずらな数の追求は、採用後のトラブルの温床になりかねないとの懸念もあるようだ。
■多様性を求める企業
新卒で入社を目指す学生にとっては耳の痛い話だが、日本企業がこぞって唱える「ダイバーシティー(人材の多様性)」が、さらに門を狭める。企業は人材、スキルの多様な中途や第二新卒を積極的に活用するようになってきている。日本経済新聞社が4月にまとめた調査でも16年度の中途採用者数は3万6219人と、15年度に比べて9.0%伸びる見通しだ。
大手人材派遣のインテリジェンスはこの5年、新卒入社数は横ばいだが、中途入社を3倍に増やした。理由は「社員に多様性を求めるため」。サントリーの15年の中途採用も、10年比で約2割多かった。こちらも「社員に多様性を持たせるため」と話す。
アイリスオーヤマは今年度に初めて第二新卒の選考を導入した。新卒と同じ選考過程に乗せ、それぞれの採用数の規定は設けない。倉茂人事部統括マネージャーは「多様な経験を持った第二新卒に期待したい。新卒一括採用から移行する1つのステップにしたい」と日本の採用慣行からの脱却までを見通している。
これまでも、多様性を求める企業の採用方針の結果、外国人留学生などの採用が増えてきた。加えて中途採用市場が盛り上がりつつあり、現役就活生にとっては手ごわいライバルがさらに増えることになる。
採用コンサルタントの谷出正直氏は、「近年は採用難もあり、第二新卒や中途も新卒と同様に、入社後の成長を重視して選考する傾向が出ている」と指摘。新卒と既卒の学生が同じ土俵に乗っている可能性を示唆する。
その中で、企業にとって第二新卒や中途採用は入社時期を柔軟に調整しやすいほか、「社会人のマナーを身につけていたり、働くことについて『今回は失敗しない』との覚悟や意欲があったりということを、一定程度期待できる」。では、新卒入社を目指す学生は第二新卒や中途採用にどう立ち向かえばいいのか。その差を埋めるためには、「雇用されることの責任を自覚し、社会人としてしっかり成果を出すとの気概を面接で訴えることが必要だ」と助言する。
■学生の過半数が「今年の就活は楽」
就活生側も「売り手」という言葉に踊らされている面はないだろうか。就職情報のマイナビ(東京・千代田)が今年4月に「今年の就活は去年に比べてどうなるか」聞いた調査。17年卒の大学生のうち、「楽になる」と答えた割合が53.9%で、前年に比べると17.9%上昇している。多くの学生が就活に関して比較的余裕を持っているようだ。
都内国立大の女子学生は1日以降、毎日3~4件の面接が入っていた。だが5日以降、連絡はぱたりと途絶えた。「売り手市場とは聞いていたが油断していたつもりはない。なぜ通らないのかな」と落ち込む。持ち駒が減りつつある中で受けた大手海運の面接。面接官からは「今年は売り手市場だから大丈夫だよ」と言われた。「何言っているんだろうという感じ」。売り手市場とは何なのか。そう考えふさぎ込む日々が続いている。
「売り手市場」とはいえ、多くの就活生が殺到する大手企業。企業側は数を重視した際のトラブルを警戒し、採用には慎重になっている。そして「売り手市場」の言葉は学生に限らず、中途採用を目指す若手の社会人にも向けられている。本番を迎えた「第2グループ」の闘いは、簡単なものではなさそうだ。
(結城立浩、岩崎航、飯島圭太郎)