天津ドーナツ

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* 50音図の落とし穴・・・さまよえる“フ”? 元NHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2011-10-09 10:33:33 | ドーナツの宝
ここ数日、富士山周辺の、ときならぬ“湧水”が話題になっていますね。“富士五湖”も、新しく誕生した“赤池”を加えて、“富士六湖”になったとか? ま、いつまで続くか判らないけれど・・・
 さて、この日本の象徴“富士山・フジサン”を、あなたはどのように発音しているだろうか。早い話が、ローマ字記号で書いて“hujisan”か、“phujisan”か、どっちらでしょうかという問題です。
  
 50音図のローマ字表記には、大まかに言って二つありますね。“訓令式”と“ヘボン式”です。文科省は“訓令式”を正式な音の表記としていますから、小学校で教えているのは“訓令式”が殆どですが、実際に社会一般で通用するのは“ヘボン式”が圧倒的で、パスポートなどは“ヘボン式”でなければ認めて貰えません。要するに、“訓令式”は、ほとんど使われていないので、念のため。(この二つの表については、後日とりあげましょう)
 ハ行について言えば訓令式では「ha hi hu he ho」で、“ヘボン式”は「ha hi fu he ho」と“フ”だけは“f”を使っています。本来、“f”は下唇を前歯で噛んで出す音で“ph”とは異なるのですが、アメリカ式の発音だと“f”と“ph”は似ているので、こうなったのでしょう。
 ここでは実際の発音について語りたいので、“hujisan”か、“phujisan”を発音して貰いたいし、どう違うかを感じて欲しいのです。
 念のために、発音の仕方を再度、確認しておきます。
 “h”の音は口の奥(舌の付け根と軟口蓋の間・便宜上ここでは喉音と言います)に隙間を空けて、息を通す音であり、“ph”の音は両唇の間に隙間を空けて通す音です。言い換えれば、口の中の最も奥で出す子音と、口の最前列の子音です。
 さあ、どうですか。あなたのフジサンはどっちだろう?
 “h”か“ph”か。
 
 実は以前、100人の東京育ちの人に発音して貰った結果があります。私的な結果ですが、なんと100人が100人とも唇の音“ph”でしたね!“hujisan”は一人もいなかったのです。
 では、「夫婦二人で・・・」と言ってみてください。ここには三つの“フ”がありますが、みんな同じ出し方をしているでしょうか。
 ゆっくり「夫婦二人で・・・」と言い、自分で、音を確かめてください。
 さあ、どうです?
 
 実は、これも同じ100人の人に発音して貰ったデータがあります。
 “夫婦”の最初の“フ”は、78%が唇音で圧倒的、二番目の“フ”は唇音44%:喉音46%で、やや喉音が優勢ながら伯仲し、三番目の“二人”の“フ”では86%と圧倒的に唇音でした。
 要するに、語頭に“フ”が来た場合には、圧倒的に唇音で、語中の音はバラバラ、同じ人でも、前後の音の関係によって、まちまちな使い方をしているのが実態です。まさに、「ハ行大移動」に取り残された音の象徴が、宙ぶらりんの“フ”音なのです。勿論、現在でも混乱したままなのです。
 納得できない方は、何度かご自分の“フ”を点検してみるとよいでしょう。もっとも、何回か繰り返しているうちに、かえって、こんがらがってくるかもしれませんがね・・・
 
 それにしても、富士山となると、100%が“ph”だったのには刮目すべきモノがありましたね。ある説によると、富士山をいにしえの日本人は、「フッジサン」と入声(にゅうしょう)で呼んでいたという話もありますから、自然なのかなとも思います。
 別の言い方をすれば、語頭にくる音が、“hu”では「頼りない音」だし、“聞き手”にとっても、聞き漏らしかねない音であることは、間違いのないところです。
 ともかく、ヘップバーンさんら外国人の耳には、ハ行のうち「ハヒヘホ」は喉の音と捉えましたが、“フ”だけは唇の音に聞こえたので、“f”で表記したことは確かですね。