中川駿監督/脚本、120分、2023年、日本。河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望。窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節。
原作は、朝井リョウ『少女は卒業しない』(2012)。第35回東京国際映画祭アジアの未来部門にてワールド・プレミア上映。
『エゴイスト』、『Blue Giant』、そして本作。
と、最近立て続けに、心を揺さぶられ、余韻の残る邦画を観てしまった。どれも記録(ならびに記憶)に残したいけど、まずはこちらから。卒業を控えた高校三年生の話である。
原作は、卒業式当日の話。7つのエピソードを、時間軸に沿って直列に並べた短編小説集らしい。本作では、監督により改変されている。
舞台は式の前日、当日の二日間。4つのエピソードが並列におかれ進んで行く。
廃校が決まった高校での、最後の卒業式である。
監督自身が仰るように、現役の高校生のみならず、かつて卒業生だったことがある者、既に卒業した人にも向けた映画のようだ。終わるものと終わらないものの対比が生きている。
私自身は、高校の卒業式には出なかった。とは言え諸事情で生徒の半数くらいは出席していないんじゃないかな。だから、特別ではない。学校自体も、随分前に無くなってしまった。
だからという訳でもないけれど、「卒業おめでとう」と言われた覚えはないし、そんな気分になった覚えもない。なし崩し的に過ぎて行った季節、という感じがある。そもそも卒業って、めでたいんだろうか。
作中の登場人物達は、「卒業したくない」、「このままが続いたら、ずっと楽しいままなのに」とも言う。
解決し切れない何かを残したまま、それでも(トコロテンのように)否応なく出て行く第一歩。
しかし、その`解決し切れない何か’は、今でもどこかに生きているらしい。もう覚えてもいないけれど、この映画を観ると、「少女は卒業しない」に何故か納得するのである。勿論「少年は卒業しない」も、本作を観るかぎり、成立している。
各エピソードの役者さん達がとても素晴らしくて、本当に引き込まれた。主人公も、エピソードの相手役もとても良かった。
台詞の数はそう多くないと思うが、表情や仕草がこちらに語りかける。十代らしいと言えばそうなのかもしれない。
ネタバレになるので多くは書かないけれど、今起きている出来事の中に、一点だけ、回想シーンが混じる。
その回想が、生の止まることのない疾走感をさらに強めるのである。
そして少しざらついた映像と、背景の満開の桜。彼らのあてどない心の動きの柔らかさが、春の気配を先取りする。
そういう意味では、2月23日という公開日も申し分ないのだろう。
準備は済んだ。君達は皆一人一人素晴らしく輝いている。各々異なりながら、各々にとてつもない価値がある。自分を信じて、自分の人生を懸命に、そして思い切り楽しんでほしい。
卒業おめでとう。
なんだか今さらになって、校長先生にでもなったつもりで、あの頃の自分に、改めてそんな風に語りかけてみたいと思った。今さらだけど、自分に自分でおめでとうと言うのも悪くはないよね。
みゆな - 夢でも【Lyric Video】映画「少女は卒業しない」主題歌
↑予告動画のようなクリップ。どこか懐かしいメロディと、肉体感覚と幻想風景が同居するような歌詞。
中川監督、初の商業長編映画だそうです。↓↑
原作本↓同作者の『桐島、部活やめるってよ』はデビュー作で映画化され(2012)、大ヒット。