主人との開業準備は、時に困難を伴いました。
何より辛かったのは、人間と社会の汚い部分が突拍子もなくドンと目の前に広げられたことでした。
細かいことは省きますが。
ある時また娘を母に預け、私はドーピングをして、主人と出かけたことがありました。
行った先で、私たちは嫌がらせを受けました。
嫌がらせって、受ける時は何が起きてるかわからないのです。何だろう?みたいな。
気づいた時は本当にただただ呆然とするだけでした。
心は動きません。ん?何が起こったのかな?え?あー、なるほど。なるほど?みたいな笑
家に帰ると、母が娘を抱っこしていていました。
娘は手に、シャバシャバに溶けたアイスを持っていました。
ママが帰るまで、食べない、と、泣くでもなくわめくでもなく、かと言ってじっと待っていることも遊んで待っていることもできず、おばあちゃんに抱っこしてもらっていたと、母は笑いながら教えてくれました。
母が、冷凍庫からシャバシャバになったアイスを再冷凍させたものをもうひとつ持ってきて「もう一回凍らせたら、食べられるかなと思って!」とニコニコしながら私にアイスを食べる?とばかりにくれました。
近くのバス停まで行ってとせがまれ、何本か見送ったりもしたそうです。
長い時間、娘は我慢していたことを知りました。
いつもはわーわーと騒がしい娘が、私に仕方ないことだからと説得されていたのでぐっと堪えていたのです。
しかしその間、私たちがしたこと、と言えば嫌がらせを受けていた、だけなのです。
もちろん仕事の成果はひとつもありません。
私はシャバシャバアイスをもらって、ようやく悔しいという感情を自覚でき、泣くことができました。
私たちは一体何をしたんだ。嫌がらせを受ける筋合いはまるでない。
本当に頭がおかしい人は、普通の風貌をしていて、世の中を我が物顔で闊歩している。
おかしいことは、おかしくないと思っているところにこそある。
私の中でまた何かが壊れて、芯になるものがひとつ増えました。
で、その後、私は開業手伝いの際はほぼほぼ、娘を連れて行くことにしました。
対価がないので、仕事と思ってなかったところも大きいですね。
また嫌がらせを受けても、娘と一緒にいるなら大してダメージもなく、後悔しないや、と思ったのです。
半分自暴自棄で乱暴な発想だったのかもしれませんが、これはいろんな意味で大当たりでした。
私の病院と一緒で、娘の存在を許容してくれる方や企業さんに主人のクリニックは支えられることになりました。
例えば、お世話になっている税理士さんは、最初の経営計画とかの話をする際、時間もかかるしー、と娘の同行を認めるどころか、奥さまがお菓子にビデオにと散々お世話をしてくださいました。アルプスの少女ハイジのビデオを見せてくださったので、娘にとっては今でも「ハイジのおじさま」です笑。
一方の私たちは、わかりやすくかつ端的な説明を受けてました。主人は、この人情というか空気感もあって、その場でこの方を信頼するぞ!と思えたそうです。その場でお願いすることにしたため、逆にビックリされました笑
家具を買いに行った時は娘をしげしげと見られつつ、「え?どなたもいらっしゃらない?奥さんだけですか?」と何度も確認されたので、ああ、また邪魔だったんだなと気落ちしながら見積もりをお願いして帰宅しました。そうしたところ、「この話乗った!」みたいな感じで。結果的には目が飛び出るほど安い価格で売っていただけたのです。お金がない私たちにとって、この上なくありがたいお話でした。
普通?は仲介業者にお願いするようなことらしく、家族が直接買いに行っているので中間マージンを引いてもらえました。それに加えて母ちゃんが髪振り乱して頑張ってるんだから、応援するよーということでもあると、主人は感激していました。
人生とは面白いものです。
人を信頼できなくなった時に、結局救われたのは人情でした。
私たちはこうやって支えられているんだと、じんわりじんわり教えられました。