みどりの中の
門が開いて
少女はそこに踏み入れようとしています。
少女は母の言いつけを守り
家のこともがんばりました
病のときも
彼女は看病したり
自分の将来のことなど
何も考える余裕はありませんでした
片隅で針仕事をなりわいにしていた少女は
村の人達の針仕事を請け負い
その日暮らしをしておりました。
母親は
村の娘たちが美しく
次々と見初められ
嫁いでたくさんの土産物や子どもたちを連れて親の元に帰ってくるのをじっと見ておりました
少女に聞こえるともなしに
「女の子はやっぱり器量よしだなければねえ」
と、ため息を毎日ついておりました
少女はそれでもなんとか村の男のもとに嫁いで
結構酷い扱いを受けても
母のもとにも戻り
甲斐甲斐しく働いていたのでありました。
嫁ぎ先では針仕事の道具を置くところもなく
母のもとに通っては毎日針仕事をしていたのでありました。
ある時母親は言いました。
あー、毎日毎日
地味でぱっとしない針仕事の道具を見ているだけでも病気になるよ。どこかに針仕事の場所を見つけてくれないかねえ
見ていると息が詰まるよ
その道具をみんなどこかに持ち出しておくれ
そうしたら私は幸せな気持ちになる
少女は
その頃はもう少女ではありませんが
母親の言葉に従い
色々探して
小さな村外れにある小屋を借りて
針仕事の場所にすることになりました
母親は
彼女の道具が持ち出される時に言いました
母親を見捨てて好きなことをして身を立てようとするあんたなど
酷い人間だよ
親を捨てる人間など不幸になる
それを聞いた少女は黙りました
けれども少女は
母親の言いつけを守っただけでした。
彼女に何ができたでしょう?
少女は森の方に駆け出してゆきました。
深い深い緑の中に
ひとつの門がありました。
彼女は
何もかも置いて
その門をくぐり抜け
新しい世界にゆこうと決めました。
どこなのかはわかりません。
けれども誰も知らないその緑の中の門をくぐり抜けてゆけば
どこかに行けるかもしれない
そう想ったのです。
彼女の心には
悲しみも苦しみも
こだわりも
もう残ってはいませんでした。
ただあるのは
よくわからないけれども
知らない世界に足を踏み入れるということだけ
それだけでした
何かを見捨てるとか
何かをないがしろにするとか
冷たくするとか
そんなものは彼女の心にはありません
うまくいえないけれども
彼女はとにかく言いつけを守っただけでした。
森の中から一羽の鳥が飛び出してきました。
歌を聞いたとき
彼女は
行こうと想いました
選択肢は
1つだけだったのです