床屋のお姉さんには妹がいて、
その妹には、バカの彼氏がいたんだそうです。
ある年の正月、バカの彼氏が床屋さん
(お姉さんのお店ではありません)に行きました。
レジのカウンターの上に小さな白い箱が
重ねて載せてあるのが見えます。
「ははーん、お正月だから
あのおみやげがもらえるんだな」
と、バカ彼は考えました。
「なかみはなんだろう?」
折りたたんだブラシが入っていそうな大きさの
小箱だったんですが、たくさんの小箱の一番下に、
ひっくりかえした温泉饅頭の箱のフタがあります。
普通の人なら、ブラシの入った小箱が、
別の箱のフタを利用してまとめられている。
と考えるところですが、バカ彼は
「なかみは饅頭2個だ」と、早合点しました。
さて、床屋さんのおじいちゃんは鼻歌まじりに仕事を進め、
「大将、もみあげはどーするね?」
これが、バカ彼には「おみやげどーする?」って聞こえたんです。
「おまんじゅうでいいです」
「へ?」
おじいちゃんは、なんかおかしいなあと思ったんでしょうが、
お客様に対して失礼があってはならぬとの配慮からか、
散髪途中の頭をなでたりさすったりして時間をつぶし、
なにくわぬ顔でもういっぺん、
「ところで大将、 もみあげはどーいたします?」
「だから、おまんじゅう!」
バカ彼が、あまりにも堂々と答えたもんだから、
おじいちゃんが勉強不足を詫び、「おまんじゅうとはどのような?」
「まるくってふかしてあるんでしょ!」「かしこまりました」
っていうようなやりとりのあと、バカ彼にしてみれば、
なぜそうなるのかわからぬままに、もみあげをまるめられ、
こめかみに熱いタオルをぎゅうぎゅう押し付けられるハメに。
バカ彼はブラシの入った小箱を持って
彼女の家へ遊びに行き、くるっとウェーブの
かかった揉み上げを気にしながら
「おまえのお姉ちゃんも床屋で働いてんだろ、
もみあげとおみやげはまちがいやすいから気を付けるように
言っといたほうがいいぞ」
と、とことんバカなアドバイスをしたという事です。