城崎温泉（その２）、秋簾

睦まじき道祖神笑む素風かな

 

肩書をはずす身軽や秋簾

 

つくつくし聞きつ吐息の露天風呂

 

からころと外湯巡りや星月夜

 

 

風船蔓

風船蔓風に委ぬる老後かな

 

風船蔓飄々渡る浮き世かな

 

学生時代の名残りの机秋簾

 

風船蔓ふくれつ面の少女かな

城崎温泉（その１）

文人の名残りの湯里虫の声

城崎温泉での古い写真で一句

 

湯けぶりにをみな湯の声秋暖簾

城崎温泉での古い写真で一句

故郷の景

往時には北前船で賑わいし

　　　　　河野の海の波は静かに

 

故郷の初秋の色は移ろいぬ

　　　　　清き白敷く休田の蕎麦

清き（すがき）

秋の虹、重陽、秋の蝶

残照の架けたる橋や秋の虹

 

重陽や妻の苦作の嵯峨御流

 

重陽や七十半ばの急坂登

 

油断なき野生の目かな秋の蝶

とんぼ、赤まんま

迷い入りて障子を叩くとんぼかな

季重なり

 

音痴とて人の個性ぞみみず鳴く

 

ダム底に沈む想ひ出赤あかね

 

をさな日のあれは恋やも赤まんま

 

 

出石（その２）

水運の往時語りて古燈篭

 

秋の辻ふともののふの気配かな

出石（その１）、糸とんぼ

刻告ぐる鼓楼や遠く秋の雷

 

写真短歌

いにしへゆ鼓楼は刻を告げ続け

　　　　　出石の町はなほ明日へと

 

 

糸とんぼ見えない糸に手繰られて

　　　　　不思議なるかな縁なるもの

 

地虫鳴く

点滅する古き街灯地虫鳴く

 

米作をやめる老農地虫鳴く

 

住み古りし「平田」てふ町地虫鳴く

稲雀

故郷の棚田の金波稲雀

 

過疎里の賑やかしかな稲雀