夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

100年の難問はなぜ解けたのか

2012-04-12 | review
この本はポワンカレ予想を解いたロシアのペレルマンとその風変わりな性格を描いたもの。 宇宙が(3次元的な意味で)球面なのか、ドーナッツの表面なのか、どんな形をしているのかを決定する方法についてポワンカレが提示し、それを彼は証明した。 NHKの番組を元にしたものだから、エピソードは面白く読めるが、L関数などの数学的な道具立てにしても、なぜエントロピーが出てくるのかにしても、いちばん知りたいところがわ . . . 本文を読む

「大帝ピョートル」を読みました

2008-06-15 | review
 ピョートル大帝(1671年~1725年)といっても予備知識はほとんどなかったんですが、ドストエフスキーやバルザックの伝記において、アンリ・トロワイヤの含蓄のある文章に魅せられてことがあるので読んでみて、とても驚きました。功績の面から言うとロシアの近代化をたった一人で思い立ち、実行した偉大なツァーリであり、負の面から言うと残虐の限りを尽くした暴君です。  この二面性は分かち難いもので、例えば無礼 . . . 本文を読む

「笑わせて笑わせて桂枝雀」を読みました

2008-04-01 | review
「笑わせて笑わせて桂枝雀」(上田文世著)を読みました。枝雀の生い立ちから死に至るまでの軌跡をきちんと取材をし、またその芸の進化についても入念な考察を加えていて、伝記としてよくできた本だと思います。彼の落語を愛する人にお勧めします。……書評としてでなく、枝雀について少しだけ私自身の思い出を書きます。 私が最初に枝雀の落語に接したのはまだ小米時代だったんだと思いますが、なんの気もなしにラジオで聴い . . . 本文を読む

「無縁・公界・楽」への疑問

2008-03-31 | review
 この網野善彦の有名な、我が国の中世史学において既に名著としての地位を確立したとも思える書を読んで多くの不満と疑問を持ちました。いつものこととは言え、素人のくせにそんなことを言うなんて、いい根性をしていると我ながら思いますが、別にわざわざ異論を唱えようと思ったわけでもなく、ごくふつうに通勤電車の中で読んでいたらそう感じたのだから仕方ありません。引っ掛かった個所は例えば次のようところです。  中世 . . . 本文を読む

シーレと東京論と足利義満

2008-02-09 | review
 最近読んだ本をまとめてメモしておきます。坂崎乙郎の「エゴン・シーレ」(平凡社ライブラリー)。この読み始めの頃に「西風の警告」という散文詩を書きました。シーレの生まれたトゥルンに行った時のあいまいな記憶が元になっています。この本は客観的な画家の評伝ではなく、思い入れと飛躍が多いものですが、そうした形でしか書けない側面がシーレにはあるのは事実だろうと思います。彼と直接関係はないんですが、物理学者であ . . . 本文を読む

明治時代の東京

2007-10-20 | review
 篠田鉱造という新聞記者の書いた「明治百話」を読みました。これは著者が明治末年以来、主に東京にいた様々な人から聞き書きしたものを昭和6年に出版したものです。岩波文庫の上下巻2冊からなる手軽な本で、通勤電車の中で読んでいたんですが、実にいろんな職業・階層の人からインタヴューした内容のおもしろさと、生き生きとした文章に感心しました。この本では話者の名前はどの話にも書かれてなくて、どういう人なのかもわか . . . 本文を読む

ブータン仏教から見た日本仏教

2007-08-06 | review
 まず問題です。次の行事や習慣のうちお釈迦様と関係があるものはどれでしょう? ① 通夜・葬式でお坊さんにお経をあげてもらう。 ② 戒名をお坊さんからもらう。 ③ お墓を建ててお坊さんにお経をあげてもらう。 ④ 一周忌に法事(法要)をする。 ⑤ お彼岸やお盆に先祖の霊を迎える。 ⑥ 朝・晩、仏壇にお線香にあげてお経をよむ。  答はすべて無関係です。何の関係もありません。お釈迦様はそんなことをやれ . . . 本文を読む

セレンディピティ再び

2006-12-23 | review
 「金属学プロムナード」(小岩昌宏著)という本を読みました。金属学の学者が専門雑誌に載せたエッセイをまとめたもので、ふつうなら関心を持つような本ではないんですが、「セレンディピティを追って」という副題が図書館の検索システムにひっかかったんですね。  その中に出てくるヘヴェシーGeorge de Hevesyというノーベル化学賞を受賞した学者のエピソードがおもしろかったので紹介しましょう。……彼は . . . 本文を読む

Japanity

2006-11-27 | review
 引き続きセレンディピティにはまっています。一つのことに一時期熱中して、やがて冷めてしまう繰り返しなんで仕方ないでしょう。長くこつこつなんてのは私の性には合いません。学校を卒業してから曲りなりにも仕事を続けてるだけで大したものです。これ以上のことを望んではいけませんw。  そういう意味では「当初の目的外のものを偶然に発見する・手に入れる能力」というセレンディピティは私にうってつけのような気がしま . . . 本文を読む

自分探しの旅

2006-11-24 | review
 有名サッカー選手だけじゃなく「自分探しの旅」っていうのが流行っているようです。でも、これってなんか変な言葉です。まず自分を探すって、どこかに置き忘れたんでしょうか?本当にそうなら警察や鉄道会社の遺失物係りにでも訊いてみたんでしょうか? 「あの、私をどこかに置き忘れたんですが、ないでしょうか?」 「ああ、最近多いんですよ。雨の日は傘、今日みたいにカラッと晴れた日は自分を落としちゃったって人がね。 . . . 本文を読む

安倍晴明伝説

2006-10-01 | review
 「安倍晴明伝説」(諏訪春雄著)という本を読みました。夢枕獏の小説と言うよりは岡野玲子のマンガの『陰陽師』の主人公として有名な安倍晴明が実際はどういう人物であったのか(新総理とは関係なくw)知りたくて図書館で借りたんですが、その目的以上の収穫があったように思います。この本の内容は著者自身が『あとがき』の中で簡潔にまとめているんでそれをまず引用します。 ① 安倍晴明の実像は職務に忠実な国家公務員で . . . 本文を読む

ナポレオン時代のファッション

2006-04-06 | review
今、「ナポレオン・ミステリー」(倉田保雄著)という新書版の本を通勤時に読んでいるんですが、その中にナポレオンが権力を掌握した頃のファッションについて書かれています。 フランス革命が1789年が勃発し、共和制になったときには、それまでのヴェルサイユ宮殿に見られるような華麗な宮廷文化はいったん消滅したんですが、ナポレオンが地位を確立するにつれ、復活し、1804年に皇帝になるとチュイルリー宮殿におい . . . 本文を読む

「物語アイルランドの歴史」

2005-12-15 | review
 この元アイルランド大使の波多野裕造による新書について触れる前に、個人的な思い出を書かせていただきます。出張でフランクフルトに向かう飛行機の中で、隣に座ったイギリス人といろいろ話をして、ワインの選び方なんかを教えてもらううちに彼が日本のコリアに対して行ってきたことと現在の姿勢について、非難めいたことを言いました。いい加減お酒も飲んでいたし、飛行機の中だと回るのも早いので、そんなややこしい話を英 . . . 本文を読む

昔と今のリンク~1980-81年:地獄の黙示録

2005-10-24 | review
 フランシス・コッポラの映画「地獄の黙示録」は79年の作品ですが、日本では80年の公開だったと思います。“Apocalypse now”(現代の黙示録)という原タイトルですが、「地獄」ってつけたのは、キャッチーではあるでしょうけど、必要以上におどろおどろしい感じ印象を与えたのかなって思います。しかし、むずかしい話は抜きにして、戦闘ヘリで「ヴァルキューレの騎行」をかけながら、機関銃でヴェトナムの住 . . . 本文を読む

東ゆみこ「猫はなぜ絞首台に登ったか」

2005-09-21 | review
 題名がおもしろいのと口絵に画像で掲げたホガースの「残酷の四段階:その第1」やブリューゲルの「カーニヴァルと四旬節の争い」などがあったので読んでみました。新書版なのでさあっと読めますが、内容を簡単に紹介すると、18世紀のヨーロッパで多く見られた動物虐待や動物を被告にした裁判がなぜ行われたか、その原因を探っていくという謎解き仕立てです。その過程で、発情期の猫の鳴き声のせいで不眠に陥った下層労働者が . . . 本文を読む