夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

「大帝ピョートル」を読みました

2008-06-15 | review
 ピョートル大帝(1671年~1725年)といっても予備知識はほとんどなかったんですが、ドストエフスキーやバルザックの伝記において、アンリ・トロワイヤの含蓄のある文章に魅せられてことがあるので読んでみて、とても驚きました。功績の面から言うとロシアの近代化をたった一人で思い立ち、実行した偉大なツァーリであり、負の面から言うと残虐の限りを尽くした暴君です。

 この二面性は分かち難いもので、例えば無礼講の宴会では取っ組み合いにエスカレートし、しばしば多数の死者が出るほどでした。ワインに酔ったピョートルは仲間に殴りかかり、剣を抜いて襲い掛かったりしたのです。しかし、深酒の果てに周囲の者が思わず秘密をもらすのに耳をすまし、酒盛りは政治の一手段でもあったのです(78ページ)。

 ネヴァ川の河口のサンクトペテルブルクは「聖ペテロの街」という意味ですが、もちろんピョートルの名前に因んだもので、その建設に当たっては強制的に連れて来られた職人、農民、受刑者が次々と「悪天候、壊血病、赤痢の犠牲になった」……犠牲者の数は10万とも20万とも言われ確定しないようですが、この街が「人骨の上に建てられた」ことは間違いないそうです(193ページ)。

 総勢250名のお供を連れて彼自ら出かけた1年半に及ぶ西欧旅行では、船の建造、航海術、解剖術、虫歯の治療、エッチング……なんでもかんでも西欧の知識を脈絡なしに知りたがり、自分でやってみようとする性格のようです(124ページ)。「明治維新」を一人で企て、体現した人物と言えばわかりやすいでしょうか。「彼の夢は、西欧の科学とロシア魂を結婚させること」だったのです(240ページ)。

 彼は他人の立場に立ってものを考えることがなく、誰のためにもやさしい心遣いは見せなかった(320ページ)と筆者は断じ、その後におびただしい残酷な振る舞いを記します。老人や妊婦にも容赦なく、逆上すると修道士にも切りかかる、放火して人びとが集まるのを楽しむ、人間、動物を問わず様々な奇形を集めた博物館を造る、「博物館の警備と暖炉番をつとめる男は、両方の手脚に指が二本ずつしかない小人だった」(325ページ)。拷問を好み、「死刑執行は彼にとってまたとない目の保養だった」(326ページ)。……

 こうした善悪いずれにおいても巨大な人物を見ているとドストエフスキーの小説の登場人物が想い起こされます。実際、副宰相まで務めた側近を斬首刑を宣告し、斧を振り下ろしながら、空振りして特赦するやり方(394ページ)は作家が受けたものと同じです。ピョートル大帝が西洋の技術・知識に誰よりも興味を抱きながらカトリックには警戒心を抱き、イエズス会の宣教師を「制度として宗教に仕え、法王の利益を図る」がゆえに受け入れなかったのも良く似ています。

 現在のロシアは原油などの資源の高騰により未曾有の好景気にあるそうです。中国とともにこの古くて新しい大国と否が応でも我々は付き合っていかなければならないでしょう。だとすればロシアの文学とともに歴史についても知っておくことは必要でしょう。別に私はそんな殊勝な気持ちでこの本を読み始めたわけでもないんですが、ピョートルが石油について述べた次のような言葉を見てそんな気分になりました。「評判の石油という物、特にあれの特性を知りたいものだ。……将来大いに役立つはずだ。ともかく我々の子孫の時代には」(341ページ)。


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なんかいろんなものがあるサイトです。


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2 コメント

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へえ (ぽけっと)
2008-06-23 22:33:36
すごい才能の人だったんですね、信長みたいな感じも受けますね。
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うんうん (夢のもつれ)
2008-06-25 15:11:55
私も信長を連想しました。蘭学者や幕末の志士や明治天皇も。。そういう人たちがやったいいことや悪いこと全部を一人でやった人みたいです。
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