「とはずがたり」を題材にした映画があるというので、見よう見ようと思いながら原文の方の連載が終わってしまいました。今になってやっとDVDを見つけてレンタルしました。私は原作と映画を比較していいとか悪いとか言うのは間違っているという立場で、「原作の雰囲気を損なっている」というよくある批判は安直なだけじゃないかって思います。それで、最初は原作と切り離して映画としてどうかってことを書いてみます。
最初に時代背景を説明するような場面が続きます。蒙古襲来に伴う庶民の悲惨な生活、それらをよそに快楽的な生活に耽る皇族・貴族といったことで、この映画が作られた1974年という時代に合った、しかし今となってはNHKの大河ドラマだって採らないようなありきたりの歴史観です。で、もちろん女性は弱者で虐げられる存在ってわけです。主人公の四条は後深草院や西園寺実兼の思惑のままに産んだ子を取り上げられたり、好きでもない男と一夜を過ごすことになったりします。四条は元来西行にあこがれ、厭世の気持ちや踊り念仏の一遍上人に惹かれたりもしてたんですが、情熱的な愛情を注いでくれた阿闍梨が急死したことをきっかけに出家して、諸国遍歴する中で真の生き方を発見します。……
脚本は大岡信ですが、ストーリーはパッチワークだし、台詞に意味も魅力もなくてひどいものだと思います。だいいち基本的な歴史知識も持っていないのか、阿闍梨と一遍上人が面影が似ているという設定はともかく上人が護摩を焚くのにはびっくりしました。念仏を称えさえすれば浄土に行けると何回も登場人物に言わせてるのに……それこそ密教の階級性wに自覚がないんじゃないかって思いました。実相寺昭雄監督は、影を多用した凝った映像でそれなりに効果を挙げているところもありますが、それが作品の中で意味があるのかないのか、自分は自分の撮りたい絵を撮らせてもらいますってところみたいです。音楽は広瀬量平でコル・レーニョが効果を挙げているところやチベット音楽みたいなのも出てきて、映像とはよく合っていました。
キャストの中では阿闍梨の岸田森が情欲の虜って感じで、いちばんおもしろかったですね。私だったら彼を中心に据えて院との三角関係だけで作っちゃいますが。華麗でドロドロのねw。ジャネット八田の四条は、目線や少しだけ出てくるヌードはいいんですが、動いたり、しゃべったりするとダメでしたw。……何よりだらだらした筋の運びで、もう終わりかなと思うとまだ続くっていう私のいちばん苦手な映画で、2時間がとても長くて、ハリウッドのプロデューサーにハサミを入れてほしいって思いました。
で、原作(ただこの映画には「とはずがたり」への言及はないので、単に参考にしたってことかもしれません)との関係について言うと、エピソードはいっぱい借りてきていますが、原作のイメージは全くありません。蒙古襲来も出てきませんし、庶民は「卑しき者ども」っていう見方ですし、子どもが連れていかれようが、思ってもいない男と情交することになろうが、まあ一応は嘆きますが、すぐにけろっとして豪奢な宮廷生活をエンジョイしてたっていうのが原作者二条の姿です。諸国遍歴してるときも自分は都の文化の伝導者とでも思っているみたいですからね。そうそう、映画はなぜ二条を四条にしたんでしょうね。だいぶ庶民的なにぎやかなところに下ってますけどw。
もちろん最初に言ったように原作を変えたっていいんですが、それで何か別の価値が生まれたかって言うと四条のキャラクターは平板で魅力的でもないし、苦悩も浅くて全く感情移入できません。岩清水八幡宮で院と再会するところも、院の葬列を裸足で追いかけるところも使わないのがそのいい例だと思います。そのため、映画全体として変にマジメで、重苦しいだけなんですね。最後のシーンで四条が実兼に渡すのが上人を自ら描いた絵巻物で、つまり「一遍上人伝絵巻」の作者は四条でしたってオチなんでしょうけど、生半可な思いつきを得意気に脚本にしたっていうこの映画全体の象徴のようで苦笑いするしかありませんでした。
調べたらマンガの方は源氏でした。
してみると、このDVDの題名はパクりなのか、それとも女流文学に共通の何かを指すものなのか、ただのいろはにほへとなのかっ
いかがでしょう、センセ…
93年までかかった大作にして、名作らしいんで読んでみたいんですけど、なんせヒマがありそうでなくて。