花巻から盛岡までは40分で着く。そのまま宮古に行きたいところだが、本数が少なく日帰りはむずかしい。宮古行き始発は11時04分というすごいダイヤだ。出発前からあれこれ考えたけれど、名案は浮かばなかった。
盛岡駅周辺に24時間営業のネットカフェはないから、、またホテルに泊まるしかない。丸1日近く時間が空いてしまった。
後から考えれば名所めぐりでもすればよかったのだが、疲れも溜まってきてそういう気になれない。
北上川に架かる橋から見る岩手山が美しい。東北地方と言うと言いすぎだが、岩手と宮城は北上川が造った平野が中心だ。東北本線も高速道路も北上川に沿っている。まるで巨大なスプーンで山の塊をえぐったようだ。
駅から繁華街まではこの橋を渡ってけっこう歩く。
あちこちぶらぶらというか、とぼとぼというかしてからホテルを探し回って結局、最初に見つけたところに戻った。
風呂に入ってから炭火焼肉の店に入る。10品の肉に冷麺や麦飯、キムチ、塩キャベツ、スープが付いて2500円のコースと飲み放題にする。七輪が出てきてまるで1人宴会だった。
朝起きてから時間が中途半端だったので、ネットカフェで時間をつぶした。宮古に着くのは1時過ぎだし、何か食べる所があるかどうかわからないからとりめしの駅弁を買った。
山田線は2両編成のディーゼル車。早池峰山の北を走っている。あの山の向こうが遠野だろうか。ずいぶん昔に行った時はきれいな川と遠野物語さながらの話を老婆から聞いた記憶がある。谷はこちらの方が険しくて、集落は少ない。席が半分くらい埋まって、ぼくの前にも中年夫婦が眠ってる。そばの国道も自家用車に救援車両が混じって交通量が多い。
宮古に着いた。コインロッカー用の小銭を作るためにソフトクリームを駅の土産物屋で買う。
三陸鉄道は全面運休している。
駅から見る街並みはなんの変哲もない。
ただの地方の小都市の街並みが続く。中心部から市役所近くまでは海に面していないからか、被害はあまりない。
海岸通りに出ると損壊が大きいが、2階まで完全に破壊されていた釜石より津波は低かったように見える。しかし跡形もない建物も多い。
海岸に面した市役所は1階がかなり被災しているようだ。
がれきを見ても動じなくなっている。そんなものだろうと思う。
「捜索済」と書かれたベニヤ板が墓標のようにも、オブジェのキャプションのようにも見える。
港は無事のようでがれきの大きな山のすぐそばに7隻の宮古と釜石の漁船が繋留されている。
近づいてみたら魚市場は完全に破壊されていた。
景勝地として有名な浄土ヶ浜まで行く。3時53分の列車を逃すと6時過ぎまでないので、急ぎ足になる。
浄土ヶ浜は小さな半島で当然かなり登る。さすがに浜までは降りるのは無理だったけど、海から突き出た奇岩を大きなつり橋から見下ろす。
しかし、橋の反対側に見えるのは徹底的に破壊された集落。そのいちばん上にある墓地を通って降りて行くと近道だった。墓石は崩れてなくてピカピカなのがその子孫の運命と対照的だった。
半島の付け根から海岸沿いにかけての辺りがいちばん被害がひどい。墓地から集落に降りて来る途中で、野球のユニフォームを着た中高生にすれ違った。「ちわー」と向こうから挨拶してくる。
遊覧船ががれきになった集落の真ん中にある。自転車に乗ったおばさんが「まちはどこにあっかね」とつぶやいていた。
津波の被害のひどい地域でもちょっと高い場所だとなんともないように見える。崖の5メートルくらいまでがえぐられているのがわかる。
津波はここまで来て、ここに残酷な線を引いた。
ここからは復路だ。宮古で何か買おうといかせんべいを買った。見ると二戸産だった。
山田線は何度も線路の下を縫う蛇行した川だった。分水嶺を超えると小川のような清流が目を楽しませる。