夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

今日聴いた音楽~Boulez:Le marteau sans maitre

2005-05-17 | music

 みなさんは、いちばん早い曲って訊かれたらどのようにお答えになるでしょうか? ベートーヴェンの第7の終楽章? チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の終楽章? 剣の舞?……もっといろんな答えがありそうですけど、単にメトロノーム的に早いだけじゃ早いって感じじゃないように思います。音楽的な密度の濃さ、思考の早さがあってスピード感が出るんじゃないでしょうか。そういう意味では、モーツァルトの音楽って早いですね。あれよ、あれよと転調しながら、感情と色彩が変化していきます。

 私はこのブーレーズの曲(1955年の完成ですから、ちょうど半世紀ですか)を聴いたとき、その冒頭の何秒間かの早さにあ然としました。「おい、ちょっと待て、今言ったことをもういっぺん言ってみろ!」って感じでしたw。大変な内容のことをあっという間に語っているのです。どんな内容かって? それが言えればいいんですが、純粋に音楽的な思想なんでとても言葉では言えないです。それは例えばモーツァルトのジュピターを言葉で説明しろというくらい無茶な話です。でも、ブーレーズが言いたかったことはストレートに「理解」できました。音楽は理解するものじゃないって言う人がいると思いますし、言葉で理解することだけに「理解」という言葉を限定するならそうですが、音楽的な意味で理解できるか、理解できないかという問題は重要です。単に好きか嫌いか、趣味の違いじゃないって思うからです。
 ここのところ、「現代音楽」に厳しいことを言ってるような気がしますが、この作品はバリバリの「現代音楽」です。そういう意味ではマイナーなクラシック音楽のうち、更にマイナーなジャンルの音楽です。食うや食わずのインディーズ・バンドよりファンが少ないかも。まあ指揮者として有名な人の代表作ですから、「主のない槌」っていう風変わりなタイトルだけはわりと知られていると思いますが、日本での演奏の機会は少ないんでしょうね。ギタリストなんかはぜひ弾いてみたいと思うでしょうけど。
 で、この傑作にポピュラリティがあるかというと、ないでしょうねw。20世紀のみならず、ヨーロッパの音楽史上に残る作品だとは思いますが、これから百年経ってもふつうの人がベートーヴェンの音楽と同じように楽しむっていう可能性はないでしょう。メロディはないし、歌と言うよりうめき声って言った方が的確でしょうし(”Pierrot lunaire”がカラオケにあったらおもしろいでしょうねw)、はなから受け付けない人も多いでしょう。
 ……「現代音楽」の悲劇は、理解できる人がなぜ自分が好きなのか自分の言葉で理解しておらず、そのことを一般の人がわかる言葉で(つまりセリーとかのタームや楽譜を持ち出さないで)説明できないことにもあるように思います。もちろん、私もそんなことできないんですけど。
 「現代音楽」だから、さっきから「理解」なんてことを言うんだろ?という向きもあるでしょう。でも、私はモーツァルトがよくわからなかった時期があります。それもわりと長い間。……クラシックを聴き始めた最初はいいんですが、ちょっと聴く経験を積んで、知識も増えてくると、するするっと聴けてしまうモーツァルトが理解できなくなりました。嫌いとか言うんじゃないんですが、どこがいいのか腑に落ちてないって言うか、シュターミッツやC.P.E.バッハなどなどと比べてどこが決定的に優れているのかわかんなくなりました。……結局はたくさん聴いて、彼に関する知識も増やして「理解」できるようになったんですけど。

 この作品は、次のような9楽章からなります。
  第1楽章: 「怒る職人」の前奏
  第2楽章: 「孤独な死刑執行人たち」の補遺1
  第3楽章: 「怒る職人」[アルトのSprechstimme]
  第4楽章: 「孤独な死刑執行人たち」の補遺2
  第5楽章: 「美しい建物とさまざまな予感」[アルト]
  第6楽章: 「孤独な死刑執行人たち」[アルト]
  第7楽章: 「怒る職人」の後奏
  第8楽章: 「孤独な死刑執行人たち」の補遺3
  第9楽章: 「美しい建物とさまざまな予感」(変奏)[アルト]

 うーん、シャールの詩に基づくタイトルなんでしょうけど、なんか一般の人からすると引いちゃうような感じでしょうね。この楽章構成にしても、それと声Sprechstimmeを含めた楽器編成との関係にしても分析すると、おもしろいような気もしますがやめておきます。聴いたことのない人は、あんまりそういうのを気にしないで聴いてみてください。いい曲ですよ。
 ミロに同名の版画があったので、掲げておきました。画像だけなんで何とも言えないですが、ちょっと捉え方があいまいな感じがしました。


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2 コメント

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こんにちは (Sonnenfleck)
2005-05-17 11:57:42
はじめまして◎拙い感想にTBいただいて恐縮です。

私はこの曲が「音楽学的に理解」できているかというと全然そんなことはなく;;ああきれいだなあ、、というかなり次元の低いところで聴きました。私個人としては、「現代音楽」のひとつの道として「理解」を経ない聴き方というのは有効なのかもしれないと思ってしまいます。「好き嫌い」にすべてを委ねるのは素朴すぎるのかもしれませんが。

長々と失礼しました。今後ともよろしくお願いいたします。
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コメントありがとうございます (夢のもつれ)
2005-05-17 12:11:46
私もSonnenfleckさんとほとんど同意見です。何だか本文と矛盾してるような気もしますがw。



わっ!すごいな。来た来たって感じを「理解」と言っているだけで、音楽学なんて能力も興味もないです。聴いていって、ここはこういうことかなって思ったときに裏づけ的にちょっと調べれば十分というか。



音楽に限らず、専門教育を受けた人しかわからないってモノなんて大したもんじゃないって思ってますし。



こちらこそ、よろしくお願いします。
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